ご免侍 四章 狐の腹切り(二十四話/二十五話)
あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をする。同心の伊藤伝八は、奉行から切腹を命じられた。妻の伊藤加代は、散華衆のねじれ念仏に、さらわれる。
二十四
「仕事がある」
「判りました」
頭巾をかぶった天狼が、目だけギョロギョロさせながら平伏している一馬を見ている。
一馬は、伊藤伝八の切腹の話をいつ切り出すか迷っていた。
「寺に不穏な動きがあると内通があった」
「はい」
「怪しい坊主が寺を支配して金を集めている」
「……」
「成敗せよ」
「その寺の名前は、判りますか」
「善光寺だ」
昨夜に忍び込んだ寺の名前だった……
「それは白装束の集団でしょうか」
「知っておるのか」
「……事情があり、昨夜に討ち取りました」
「手が早いな……良かろう、確認できしだい金子を渡す」
「それでお願いが」
一馬からの願いは珍しい、天狼は値踏みするように一馬を頭巾のしたからにらみつけた
「なにか問題か」
「はい、盟友の同心が腹を切らねばなりません」
「……それで」
「助けたいのです」
「同心の失態なら無理だぞ」
「いえ、それが、私の失態と思われます」
琴音の事をふせて、事情を説明すると天狼はむっつりと
「お前の喧嘩で、同心が腹を切る事になったと」
「そう……なります」
「それはおかしいな、お前はご免侍としての免状がある筈だ」
「はい」
「ならば、与力のところにいけ」
「……私がですか」
「お前に与えられた力を見誤るな」
天狼は、それだけ言うと手をふって退席の意思を伝える。
一馬は確かにご免侍として働いているが、他の役人に見せた事は無い。あくまでも現場で働くための手段としか考えていなかった。
「与力が俺に会うのだろうか……」
町奉行所に行くと下人に面会したいと自分の名前を伝えた。すぐさま客間に案内されると、しばらくして与力があらわれる。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?