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SS 歪んだ顔【通信教育&計画通り&シンメトリー】三題噺チャレンジ

私はゆっくりと屋敷までの道を歩く。道沿いの樹木が並木道を作りシンメトリーのように美しい。私は左右対称が好きだ。今の時代は女が働くのが難しい。それでも勉強をして私は看護婦になれた。

「あなたが新しく来た看護婦さん?」
家政婦が私を見ながら目が頭から足まで何度も往復する。
「アリシアと言いますよろしくお願いします」

「本当にかわいいわね」
彼女はそれだけ言うと屋敷の部屋を案内する。古い屋敷はかなりくたびれているのか湿気も多く陰鬱だ。二階の一番奥まで行くとドアをノックする。返事が無いが家政婦はドアを開けた。狭い空間におもちゃがちらばっている。

「トーマスさま 新しい看護婦ですよ」
彼は私に顔を向ける。いびつな顔は左右で異なっていた。私を見るとあわてて目をそらした。自分の容貌が悲しいのだろう。私が呼ばれた理由がわかる。彼は病弱と聞いている。少しでも慰めになるために呼ばれた。

「私はアリシアです よろしくね」
私が手を伸ばすと彼はおずおずと手を出して触る。顔は下を向けたままだ。私は彼の手を握る。ふくよかな手は栄養も良い、暖かくやわらかい。私は彼を安心させるように触る。

歪んだ顔01

彼は部屋の中でボードゲームをしたり本を読むだけの生活だ。足も悪いため杖を使っている。私はトイレの介助も行う。歪んだ彼の体は長生きが出来ないと言われていた。

「あなたが新しい看護婦かね?」
立派な紳士が私を見る。整った顔立ちの彼は私を欲望の眼差しで見る。
「はい 看護婦の勉強は通信教育からはじめて学校に通えるようになりました」
「苦学なのか トーマスを頼むよ」
私の手や肩に触れる。私は気にしないそぶりをしていた。

「アリシア 遊んで」
トーマスは私に抱きつくと遊びをせがむ。前任者はすぐ辞めたと聞いた。たぶん息子の問題ではなく父親の問題と思えた。私はトーマスに精一杯やさしく接した。彼はいつしか私を肉親のように感じていた。

「アリシア 私の妻にならないか?」
トーマスの父親はベットで私にキスをする。私は彼とすぐに肉体関係になる。妻は居ない。トーマスを産んで死亡したと聞いた。私はうなずいた。ここまでは計画通りだ。私は看護婦の求人から子供を相手にする仕事を探した。病弱な子供なら死ぬかもしれない。いや死なせれば良い。館の主人は私を選ぶかもしれない。そんな思惑があった。

「トーマス 今日はお風呂に入りますか」
私は彼に近づく、彼は私を見るとにっこり笑う。
「体を洗って」
私は彼を脱がせると湯船に導く、事故に見せかけるか、薬を使うか私は迷っていた。トーマスは私の手に触る。
「君が好きだ 莫大な財産を上げるよ だから父親を殺して」
私は硬直した、まるで私の計画を知ってるかのように私を誘導する。

「ぼくは人の心が判るんだよ 触ると判る」
私は手を離そうとした
「無駄だ すべて知っている でもだからこそ君に頼みたいんだ」
私は青ざめながら
「わ 私を憎まないのですか?」
強欲で残虐な看護婦の私は自分を恥じる。これも神の天罰なのだろう。
「まさか 人間は誰しも醜いよ 僕の顔と同じだ それが見えるか見えないかだけだ」

彼は私の腕を触りながら
「君なら裏切らない お互いの秘密を知っている 僕は君の欲しい物を渡せる」
私は納得した。

私は薬を使いトーマスの父親を殺害しようと考えた。でもその前にトーマスが高熱を出した。私は精一杯の看護をしたと思う。彼は何も話さないまま、この世を去った。

「君が好きなんだ 待ってくれ」
父親は私を妻にしたかったらしい。でも殺すと決めた相手とは一緒にはなれない。私は屋敷から離れた。私は今はシンメトリーが嫌いだ。歪んだトーマスの顔が愛しい。歪んでも私を愛そうとした彼は美しい。

終わり

歪んだ顔02


ランダム単語ガチャで作成しています。


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