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死と記憶の無い少女、黒い家の惨劇(17/60)

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第三章 近所づきあい
第五話 浮浪者

あらすじ
 児童養護施設じどうようごしせつから親戚に引き取られた櫻井彩音さくらいあやねは、長男が死んだ事で榊原さかきばら家から逃げたいと考える。


「また、あのおばあさんが騒いだの? 」
 クラスメイトの伊藤愛美いとうあいみが声を出さずに笑って見せた。子供の頃から住んでいるので祖母の八代やよの奇行は知っている。

「野良猫を布団叩きで追いかけたり、犬が壁におしっこしていると棒で叩いたり」
 子供も叩かれたと言う。普通に歩いていても話し声がうるさいとかで追いかけられたりした。近所で悪評が立つのは当然だ。

「それでも最近は、大人しかったのにね」
 長男の光男みつおが死んだのが原因なのか、私が家に居るのが原因なのかは判らない。八代やよは、徐々に認知症が進んでいるのかもしれない。

「警察が来たのは驚いた、誰が通報したのかな……」

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「じゃあ、また明日ね」
 愛美あいみが仲間と遊びに行く、私はいつものように家路いえじを急ぐ。今日はお風呂掃除かな? 一階と二階があるから重労働だ。いつものように公園の横を通る、今日は寄り道はダメだ。主婦の朋子ともこに怒られる。

「お! ねえちゃん、奥さんは元気かい? 」
 玄関先に居た浮浪者が私に声をかける、彼が長男を殺したかもしれない。私は反射的に逃げる体勢になる。携帯電話で通報した方がいいかもしれない。

「やめなよ、おびえてるよ」
 三杉良太みすぎりょうたが隣に居る。玄関先に居た男は吉田守よしだまもるだと名乗る。彼らはペアで生活をしていた。私は少しだけ安心をして、彼らに近づく。子供を殺すようなカップルには見えない。

「あ……あの、朋子ともこさんとは、お知り合いなんですか? 」
「まぁ知り合いだな」

 つい質問してしまう。医者の奥さんと浮浪者の接点が判らない。吉田守よしだまもるは、ニヤニヤと笑いながら言葉を濁して公園の奥の方に歩き去った。まるで恋人同士のように見える。私には判らない世界だ。彼と妻の朋子ともこの関係性を考えながら歩いていると、榊原さかきばら家が目の前にある。玄関の扉を開くと祖母の八代やよが、ぼんやりと私を見ていた。

「あ……あの、ただいま……」

 無反応なのも不気味だが、私は横をすり抜けるように家に入る。刺激をすると騒ぐかもしれない、キッチンやリビングを見ても、誰も居ない。妻の朋子ともこは、また買い物らしい。二階にあがり風呂掃除の準備を始める。その前に、長女の佳奈子かなこに挨拶する。

佳奈子かなこさん、戻りました。お風呂掃除しますね」
 ドアの外から声をかけても返事が無いので寝ているのかもしれない。私は水を流しながら風呂掃除を始めた。


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