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死と記憶の無い少女、黒い家の惨劇(18/60)

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第三章 近所づきあい
第六話 第二の殺人

あらすじ
 児童養護施設じどうようごしせつから親戚に引き取られた櫻井彩音さくらいあやねは、長男が死んだ事で榊原さかきばら家から逃げたいと考える。


 二階の風呂掃除が終わり、私は一階に戻ると祖母のの姿は、玄関八代やよから消えていた。玄関のドアが少しだけ開いている。外に出たのかな? と思うと心配になる。徘徊はいかいで老人が行方不明になる、ニュースで見た。

「どうしよう……」
 正直な話をすれば、八代やよに親近感はまったく無い。それを言い出すと榊原さかきばら家の人達でまともなのは、長女の佳奈子かなこだけだ。父親の榊原昭彦さかきばらあきひこは親切に見えるのに、私は恐ろしく感じている。私を飼育しているように感じる。まるで実験用の動物の役割にも思える。

 でも無視する事はできない、私は玄関から外に出て道路を探す、左右に伸びる一本の道は、横に入る脇道わきみちがない。かなり遠くまで歩かないと折れ曲がらない。見る限りは人影は無い。

「庭かな? 」
 八代やよが庭で花を見ているかもしれない、水をあげてるのかもしれない。玄関から左側の庭に回る。少しばかりの植木鉢うえきばちがあるくらいで妻の朋子ともこは、ガーデニングの興味が無いのか殺風景さっぷううけいだ。庭はコンクリートブロックで隣家とは分離されているが、古いのか高さが無い。私の胸くらいしかない。また宮田家を見てしまう、カーテンはしまったままだ。宮田健太みやた けんたは監視していない。

 左側の庭に誰も居ないのを確認すると、玄関に戻って右側の庭を見る。誰も居ない……いや、人が倒れて見える。

「大丈夫ですか! 」
「どうしたの? 」
 後ろから声がする、ふりむくと長女の佳奈子かなこが居た。

「おばあちゃん! 」
 佳奈子かなこが私の脇をすりぬけて走る、倒れた八代やよの体をゆする。すぐに絶叫に変わった。私はまた動けない、心臓がドキドキと早鐘のように速くなり胸が苦しい。目眩めまいがすると私は座り込み目をつむる。

「助けて……先生」
 両親の顔すらもう覚えてない、いつも私を心配してくれたのは、主治医の斎藤輝政さいとうてるまさだけだ。

 私は手探りで地面から立とうする、丸い柄が手に触れる。目を開けるとハンマーだ。家庭用の釘打ちではない、もっと大きな鉄のかたまりがついている。私はそれを持ち上げると、鉄のかたまりの部分は赤黒い血と毛と骨片が付着ふちゃくしている。


伊藤愛美(いとうあいみ)


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