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死と記憶の無い少女、黒い家の惨劇(30/60)

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第五章 やさしいお母さん
第六話 第三の殺人

あらすじ
 児童養護施設じどうようごしせつから親戚に引き取られた櫻井彩音さくらいあやねは、連続殺人に巻き込まれる、母親の朋子ともこは精神を失調する。


 いつものように朝に家を出る。妊娠が判ったのか母の朋子ともこは、部屋から出てこない。朝食の匂いが駄目だ。つわりの経験が無い私にはその苦しさは実感はできないが、今まで食べられたものが食べられなくなると聞いた事がある。

「つわりには、どんな食事がいいのかな? 」
 私はつい口をすべらした。伊藤愛美いとうあいみ怪訝けげんそうな顔だ。

「誰が妊娠したの? 彩音あやね? 」
 怒っているように眉をひそめる、私は一般的な話だと言い訳する、それでも不審そうに私は見ていた。誤解されたかなと思う。

「もしあんたが妊娠したら言ってね、カンパするから」
 私は乾いた笑いしか出なかった。

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「よう、今日は奥さんの所に行きたいんだけど? 留守かい? 」
 買い物の帰りに公園を通ると浮浪者の吉田守よしだまもるが近づいてきた。わざわざ遠回りをして公園のコースから外れて家に帰るのも変だが、声をかけられるのも困ったと思う。

朋子ともこさんは、調子が悪いんです」
「なんだ病気か?、お見舞いするか? 」
 旦那さんがお医者さんなのに、素人が見舞いをしても意味は無いと思うが、吉田は昔から朋子ともこと仲が良かった、祖母の八代やよの手下として働いていたので当然だ、だから今でも朋子ともこに頼っている。

「ご飯代とか足りないですか? 」
「別に、良太りょうたも稼いでるからな、顔を見たいだけだ」
 不貞腐ふてくされたように自分のビニールハウスに戻って行く。もしお金目的なら少しは出せると思うが、今度は私に頼られると困る。誰に相談すればいいのか判らない。

「ただいま」
 ダイニングのドアを開けても誰も居ない。私は二階へ行くと長女の佳奈子かなこを探すが、居なかった。別の部屋かな?と思うが、この家も広いので全ての部屋を探すのが大変に感じる。一階に降りて母親の朋子ともこが寝ている客間の扉をコンコンと叩く。

朋子ともこさん、大丈夫ですか? 」
 返事が無い、丸一日は顔を見ていない。ドアには鍵がかかってない、部屋の中に入ると客用のベッドで横を向いて寝ていた。

朋子ともこさん、気分が悪いですか? 」
 声をかけても返事がない、顔を見ると白く赤みが無い。私が肩をゆすっても反応が無い、あわてて掛け布団をはぐと、朋子ともこの腹部に包丁が刺さっていた。シーツは黒く血で染まっている。

三杉良太


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