死と記憶の無い少女、黒い家の惨劇(29/60)
第五章 やさしいお母さん
第五話 妊娠
あらすじ
児童養護施設から親戚に引き取られた櫻井彩音は、連続殺人に巻き込まれる、母親の朋子は精神を失調する。
怒りの目を恋人に向ける三杉良太は本気に感じる。私はあわてて、話を聞いただけと説明をして誤解を解くと落ち着いた様子だ。いきなり殴り合いになりそうだったので私は怖くなる。
「ごめんなさい、勘違いしちゃって」
良太が仕草を女らしくして見せるとクネクネと体をねじる。女性はそんな事はしないけど、男から見る女は、そんな感じなのかもしれない。吉田守は怒鳴られた事で不機嫌になっていた。私は夕飯の仕度があると言い訳をすると急いで離れる。男性同士の嫉妬で修羅場とか、どんな感じなんだろうか?
「ただいま」
妙に静かな家は、長男も祖母ももういない。無人のような家に戻ると児童養護施設に居た頃の騒がしさが懐かしく感じる。嫌な事もあったが少年少女がいつもいる施設はうるさくても活気はあった。
キッチンに入ると長女の佳奈子が黙って座っている。テーブルに頭をつけて泣いているようにも見える。
「佳奈子さん、大丈夫? 」
「妊娠しているみたい……」
息をのむ、美しい彼女なら恋人がいてもおかしくはない。相手は宮田健太だろうか? 精神を病んでヒキコモリの彼は榊原の家に上がり込む事もある。密かに忍んで愛し合った? 私は顔が赤くなる。
「気分とか悪くなりましたか? 」
「違うわ、母が妊娠したの」
ふいに私の顔を直視すると、ケラケラと笑い出す。私の方が狐につままれたような顔をしていたらしい、佳奈子が笑い疲れるまで私は呆然としていた。
「母の気分が悪いのはつわりよ」
「それは……おめでたい事です」
高齢出産になるのだろうか? 産めるか心配にもなる。しかし佳奈子に喜びの様子は無い。
「堕ろすことになると思う」
私は事情をそれ以上は聞かない事にした、ナイーブな話で決めるのは榊原昭彦と朋子だ。
夕飯の仕度を始める。その日は朋子は、部屋から出てこなかった。帰宅した昭彦に、長女の佳奈子は、何も説明をしなかった、体調不良とだけ伝えていた。私は部外者として黙っている事にする。
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