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死と記憶の無い少女、黒い家の惨劇(28/60)

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第五章 やさしいお母さん
第四話 祖母の過去

あらすじ
 児童養護施設じどうようごしせつから親戚に引き取られた櫻井彩音さくらいあやねは、連続殺人に巻き込まれる、母親の朋子ともこは精神を失調する。


 榊原昭彦さかきばらあきひこは、不思議な人物に感じる、彼は医者よりも学者にも見えた。冗談は好きではなく真面目な彼が悪魔の本を所持しているのに、違和感を持ったが考えても意味がないので手早く本を片付けながら掃除する。ホコリも溜まっているので地下室には誰も来ないのは判る。

 土曜日も忙しく各部屋の掃除や溜まった洗濯物を片付ける。夕飯くらいになると疲れが出ていた。

御苦労様ごくろうさま、チョコ飲む?」
 長女の佳奈子かなこが私をねぎらう。キッチンで私に暖めたホットチョコを作ってくれた、疲労には甘い物が一番だ。

くさい! 」
 急に大声がすると母の朋子ともこが叫ぶ。チョコの香りで口を手でおおっていた。流し台に走ると、激しくえずく。

「大丈夫? お母さん」
 佳奈子かなこが背中をさする。朋子ともこは、しばらくするとぐったりしたように一階の客間用の寝室で寝る事にした。

「なにか変なものを食べたのかな? 」
 私の問いに佳奈子かなこは眉間にしわを寄せていた。夕飯の買い物をするために私は買い出しに出る、母親にレトルトのおかゆを買う。夕暮ゆうぐれの公園は、まだ子供達で一杯だ、子供達の声がする中で浮浪者の吉田守よしだまもるの声がした。

「よう、ねえちゃん」
 反射的に体が飛び上がる、いきなりなので心臓がドキドキする、よくない兆候だ。浮浪者の吉田守よしだまもるが、片手を上げて近づく。私は反射的に体を横向きにする。

「なんでしょうか? 」
「いや奥さんは元気かなと……」
 最初に会ったときも同じ事を言っていた、まるで知り合いみたいな口調なので私はつい関係を聞いてしまう。

「ん? 朋子ともことの関係? まぁあれだ、俺は八代やよの下で働いていた」
 彼は金貸しの手下だった、汚い仕事をけ負う彼は正規社員ではない、単なるバイトでしかない、だから年を食ってもなんのキャリアもない。仕事ができなければ、浮浪者になるしかなかった。

「たまに金とか貰える」
 仕事の世話はできないが食費くらいなら面倒を見ていた。彼は私の知らない話を色々と聞かせた。祖母の八代やよは、かなりずる賢く周囲の人間に優しくしてから、裏切る行為を繰り返していた。近所の人間には、かなり恨まれている。

「その娘に手を出しちゃ駄目よ! 」
 三杉良太みすぎりょうた怒鳴どなる。


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