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死と記憶の無い少女、黒い家の惨劇(37/60)

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第七章 暗転
第一話 隣家の息子

あらすじ
 児童養護施設じどうようごしせつから親戚に引き取られた櫻井彩音さくらいあやねは、黒い家で殺人犯と疑われた。彩音あやねは家から逃げ出すと浮浪者の三杉良太みすぎりょうたに助けられる。


 昔は私娼窟ししょうがいといわれた地域。私がかくまわれている場所はとても古い町並みだ。トタンの壁と木造の家が並ぶ昭和のような地域で、雑多で派手な看板が多く、どこに何があるか判らない。

彩音あやねちゃん、どうする? 」
 浮浪者の三杉良太みすぎりょうたは、私を心配そうに見ている。彼は元から路上で暮らすのに馴れているが、私が路上生活をするのは難しい。

「若いから売りなら、いくらでもできるけどね、この道に入ったら出られない……」

 悲しそうに彼は自分の過去を語る。同性が好きな事を秘密にしているのを耐えられずに会社を辞めて、知らぬに路上で生活していた。常識に縛られるのが苦痛で仕方が無い人も居る。そんな人たちは浮浪者として生きるのが当たり前のように感じていた。

「毎日、どこそこに判子を押せとか、どこかのファイルの中にある番号を探して記入とか、うんざりだったわ」

 彼は今は幸せそうに見える、大きな暖かい手で私の手を握る。彼から比べれば私の手は本当に小さくて弱い、そんな私が殺人を実行できたのだろうか?

 一人目は長男で絞殺されていた。
 二人目は祖母で頭を鈍器で殴られていた。
 三人目は母親が寝てる所を包丁で腹を刺されていた。

 未成年の私でも実行はできるが、私には動機が無い。確かに私からすれば嫌な家族達だが、殺意を持つほどのきっかけは無い。もし私が怒りで、犯行後に記憶を消していたら? 小学校の事件も私は記憶が無い。記憶さえなければ不自然な行動もしないし、自白を強要されても話す事が無い。

「将来の事はまだ判らないわね、でもドロップアウトもできるからね」

 私が犯罪者なら、三杉良太みすぎりょうたの世話になろう。刑務所で罪をつぐない、出所して彼らの家を掃除する。案外悪くないように思えた。

 玄関でチャイムが鳴る。お客が来たようだと良太りょうたが、つぶやく。いそいそと彼が立ち上がると、玄関先で嬌声きょうせいが上がる。

 リビングに入ってきた青年は、宮田健太みやた けんただった。彼は少しだけ驚いたような顔をして私を見る。私の方が彼が、なぜここに来ているのか判らなかった。


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