死と記憶の無い少女、黒い家の惨劇(38/60)
第七章 暗転
第二話 売る理由
あらすじ
児童養護施設から親戚に引き取られた櫻井彩音は、黒い家で殺人犯と疑われた。彩音は家から逃げ出すと浮浪者の三杉良太に助けられる。
「愛美が、探してたよ」
「私を探しに来たの?」
宮田健太は、首を横にふる。少しだけ悲しそうにも見えるが表情が乏しいのか考えを読めない。
「彼は売れっ子なのよ! 」
三杉良太は、彼の肩を両手で支えるように誇らしげに手を置いた。私の頭の中はバグっているように機能が停止をしている、理解するまでかなり時間が必要だった。宮田健太は、若干緊張したように私に告白する。
「俺はバイなんだ」
彼は幼い頃から男性も女性も好きで、それが自然に感じていた。彼はハンサムで誰からも好かれていた。だから恋人を作るのに何も障害がない。そんな中で男性へ告白をした事で彼は世間と自分が乖離している事に気がついた。相手からは冗談だと思われて、その時は問題にはならなかったが、成長するにつれて強い性欲を制御できなくなる。
「俺の事を知っているのは、佳奈子だけだ」
隣家の佳奈子も好きだ、でもそれ以上に男性への愛情もある。彼はその衝動を、この地域の私娼窟で解消をしていた。
彼はいつしか学校に通えなくなり、精神科に頼りながら今でも商売していた。
「たまに街をふらついていると、愛美と出会うんだ」
彼は隣家の愛美が自分に恋愛感情を持っている事に気がついているが、それには応えられないとつぶやく。妹のような彼女と自分の今の状況は釣り合わない。
「恋人がいるって言ってしまって、佳奈子だと匂わせたかな……」
愛美は失恋をしても、まだ諦めていない。宮田健太の事がまだ好きだと思う。嬉しそうな愛美の顔を思いだすと悲しく感じた。
彼はシャワーを浴びるために浴室に入る。しばらくすると男性客がリビングに入ってきた。客が来たことで、三杉良太が私を外に連れ出した。客は私をめずらしそうに見ていたが、性的な対象者とは見ていない様子だ。
「この服を貸すから公園でぶらついていて、たぶん浮浪者に見えるから」
灰色のフード付きの服は年期が入っているのか匂いも染みついているが、不快な感じない。ただ煙草と男臭い、それでも私は平気だった。なぜなのか? 私を着替えて、三杉良太から万札を渡されると私は公園に向かって歩く。
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