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死と記憶の無い少女、黒い家の惨劇(39/60)

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第七章 暗転
第三話 公園での出会い

あらすじ
 児童養護施設じどうようごしせつから親戚に引き取られた櫻井彩音さくらいあやねは、黒い家で殺人犯と疑われた。彩音あやねは家から逃げ出すと浮浪者の三杉良太みすぎりょうたに助けられる。


 公園は、ほどほどに大きく浮浪者も散見さんけんできるくらいには広かった。ここは段差が多いのか、彼らはあちこちでブルーシートに住んでいる。逮捕された吉田守よしだまもる三杉良太みすぎりょうたも普段はここで生活している。

 私も彼らのようになる? 殺人犯人として烙印らくいんを押されて、公園で体を売る生活。不思議な事に、私は絶望も悲観もしていない、両親が失踪しっそうした時も私は悲しまなかった。いや違う……薬のせいかもしれない。そして思いだす、私は自分の部屋から薬を持ってくるのを忘れていた。
 
「どうしよう? 戻って部屋から持ってくるかな……」

 薬が無くなると、私の病気が悪化する可能性もある。今はまだ平気だ、感情も安定している、記憶も確かだ。
 
「あら? あなたは榊原さかきばらさんの所の……」

 古びた木製のベンチに座っていると、主婦が声をかけてくる。隣家の宮田よしこだった、精神疾患を持つ宮田健太みやた けんたの母親だ。一回だけ玄関先で会った事がある。彼女は憔悴しょうすいしているのか落ち着きがなかった。
 
「どうしました? 」

 私が何かできるわけでもない、私は今は警察から逃げている状態で余裕もない、それでも自然と声に出していた。母親が困っている姿を見ると、自分の母の事を思いだすから?
 
「息子の事が心配で、このあたりでいつも見失って……」

 宮田健太みやた けんたが心配で探していた、彼は用心深くふるまっているのか、体を売るアパートの存在を知られてない。もし事実を知ったら、神経質そうな母親がどうなるのか不憫ふびんに感じる。
 
 私たちは、いつしかぽつりぽつりと言葉をかわす。彼女は昔の話をしている、榊原さかきばらの家がどれほど厄介やっかいで苦しめられたか。彼女の親も土地をだましとられた、榊原八代さかきばらやよの行動も異常で、川口家の主婦をノイローゼにさせて自殺に追い込んだ。
 
「私の夫も隣家のせいで精神を病んで、結局は離婚になった……」

 榊原さかきばら家のせいで周辺の住民達は苦痛を味わっていた。この状態ならば、誰もが殺人犯の可能性がある、もちろん最悪なのは私が人を殺した可能性だ。


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