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死と記憶の無い少女、黒い家の惨劇(40/60)

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第七章 暗転
第四話 暗闇の通路

あらすじ
 児童養護施設じどうようごしせつから親戚に引き取られた櫻井彩音さくらいあやねは、黒い家で殺人犯と疑われた。彩音あやねは家から逃げ出すと浮浪者の三杉良太みすぎりょうたに助けられる。


「母さん、どうしたの? 」
 宮田健太みやた けんたが姿を見せる。母親の宮田よしこが立ち上がると息子の胸ぐらをつかむと泣き出した。殺人事件が起きている、あなたの命だって殺人鬼に狙われるかもしれない。母親は嗚咽おえつをもらしながら家に居てと頼んでいる。
 
「大丈夫だから、夕方には家に戻るよ」

 その一言だけでも安心して気が抜けたように宮田よしこは家へ帰る。その後ろ姿を見ながら深く息を吐き出した宮田健太みやた けんたは、私の方をふりむきながら、私娼窟ししょうがいへ戻るように私の手を引いた。彼の手も大きく私を安心させる。
 
「あの、実は薬が切れてしまうかも……」

 精神的な病気を抑える薬だ、無くなれば凶暴性を発揮するかもしれない。宮田健太みやた けんたも薬の重要性は判っているのか、私の手を引きながら榊原さかきばら家へ戻ろうと言う。
 
「マスコミがまだ居るが、秘密の場所があるんだ」

 私たちが住んでいる街はかなり古い、私娼窟ししょうがいがまだ残っているように、榊原さかきばら家にも当時の取り立てで、責務者せきむしゃを追い込んだ秘密の地下室があった。
 
「そんなものがまだあるの? 」
「君の家の地下室だよ」

 治療器具や魔術の本があった部屋だ、入り口は一階からしかいけないと思っていた。宮田健太みやた けんたは、祖父から教えてもらったと秘密のように小さな声でつぶやく。彼の家も榊原さかきばら家に従属じゅうぞくしていた家庭だった。

「僕の家へ行こう」

 借金を背負わせた人間を、表通りからではなく裏から地下に連れて行く、そして責める。責める方法は様々だが、拷問めいた事もしていた。

「祖父は後悔していたようだ……」
「そんなひどい事を……」
 
 私は灰色のフードをかぶったまま宮田家の近くまで来ると、マスコミが陣取っている表通りを避けて裏通りから宮田家に侵入できた。裏の勝手口から家に入るとすぐに地下室のドアがある。ドアは木製で年代を感じた。

 古いドアから狭く暗い階段を降りる。宮田健太みやた けんたと一緒に降りていく不思議な浮遊感は現実感がない。様々な事が連続しているせいで、心が麻痺していた。
 
「ここから進めるんだ」

 宮田家の地下室に降りると薄暗い倉庫状態だった。雑然とした段ボール箱を片付けると、そこに奇妙な狭いドアがある。幅が一メートルもないスチール製のドアだ。彼は地下室につるしてある鍵束を持ってくるとドアを解錠する。
 
「君だけでいけるかい? 」

 LEDの懐中電灯を持たされると、通路の先に指さす。暗く電灯もない通路は、湿気があり不快に感じる。私はこわごわと通路の中を進んだ。


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