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死と記憶の無い少女、黒い家の惨劇(41/60)

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第七章 暗転
第五話 魔術の部屋

あらすじ
 児童養護施設じどうようごしせつから親戚に引き取られた櫻井彩音さくらいあやねは、黒い家で殺人犯と疑われた。彩音あやねは家から逃げ出すと浮浪者の三杉良太みすぎりょうたに助けられる。


「僕はいけない、不法侵入になるからね……」
 後ろから宮田健太みやた けんたの声がする、その声は遠く不気味に思える。LED懐中電灯をまっすぐ向けても光は届かない。電池が弱いのか暗い。私は足下を照らしながら歩き始めた。
 
 通路はまっすぐで曲がり角はない、音もない通路を歩くと時間の感覚が消えていく。お寺にある「胎内たいないめぐり」のような錯覚を感じる。引き延ばされた時間が無限に続きそうに感じる。

「出口側の鍵が閉まってたらどうしよう……」

 もし榊原さかきばら家の方で鍵がかかっていたら、私は閉じ込められる? もし宮田健太みやた けんたが殺人犯ならば、誰にも知られずに私を閉じ込めたままにできる。そう思うと足が少しだけ震えた。

 「……妄想よ……」

 私を殺す理由がない、それに薬を取りに行きたいと言ったのは私だ、そんな偶発的な状況で閉じ込めて飢え死にさせるだろうか? でももし榊原さかきばら家の住人に恨みが強く、私は最後に残すつもりだったらどうだろう? 
 
 心臓の動悸どうきが速くなる。少しだけめまいがする、私は薬のために先に進む。体感的には三十分くらいだったが、実際の時間は十分くらいだろう。ゆっくり歩いているので普段より歩みは遅い。しばらくするとスチール製のドアを見つける。ロックを解除するつまみが付いていた。通路の内側から開けられた。
 
「良かった……」
 
 ここのドアも幅が狭く通常のドアの形状とは異なっていた。スチールロッカーの幅くらいの錯覚がある。

 中に入ると真っ暗だ。地下室の電気は消えていた。私は電気をつけずに榊原さかきばら家の地下室を歩く、折りたたみ式のベッドや医療用の器械や点滴用の金属製ポールもある。榊原昭彦さかきばらあきひこは、地下を治療室のように利用していた。
 
 私は一階の階段に見つける、まぶしい光に私は安堵していた。家の中は静かで人の気配はない、警官も居ない。不用心に感じるが、長女の佳奈子かなこは、どこかに移されているのかもしれない。私は用心深く二階まで上がり自分の部屋から薬を持ち出す。
 
 一階に戻ろうとすると、榊原昭彦さかきばらあきひこの寝室のドアが少しだけ開いている。私は人の気配を感じてあわてて一階に戻る。佳奈子かなこが、まだ残っているのだろうか? 彼女の食事はどうなったのだろうか? 私は地下まで降りると、上の階で誰かを呼んでいる声がした。私はすぐに元の地下通路を進む。


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