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死と記憶の無い少女、黒い家の惨劇(42/60)

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第七章 暗転
第六話 かくれんぼうが終わる日

あらすじ
 児童養護施設じどうようごしせつから親戚に引き取られた櫻井彩音さくらいあやねは、黒い家で殺人犯と疑われた。彩音あやねは家から逃げ出すと浮浪者の三杉良太みすぎりょうたに助けられる。


 宮田家と榊原家をつなぐ地下通路を通り、宮田健太みやた けんたが待っている地下室の扉を開く、床に座っている彼は私を見ると立ち上がる。
 
「薬は持ち出せました」
「どうする? 私娼窟ししょうがいへ戻る? 」

 宮田健太みやた けんたは、自分の家で、かくまえるけど限度がある。警察に行くか、このまま逃げるのか? と選ばせた。私は逃げる方を選ぶ、戻るにしてもほとぼりが冷めるまで、マスコミが落ち着くまでと考えていた。その間に犯人が捕まるかもしれない。もしくは私自身が犯人かもしれない。私が居ない事で、事件が起きなければ後者の可能性が高くなる。その場合はお医者様に頼ってみようと計画をしていた。
 
「判った、部屋代は俺が払うよ」
「え? でも私は返せるアテが無くて……」

 宮田健太みやた けんたは、その無表情の顔を少しだけゆるませる。自分は金の為に男性を抱いているわけではない、自分の心が満たされるので売りをしている。部屋代くらいは十分に払えると安心させる。
 
「なんでこんなに親切にしてくれるんです? 」

 私も榊原家に関係している親族の一人だ、憎しみとかないのだろうか? 私が不思議な顔をしていると佳奈子かなこのためだと教えてくれる。佳奈子かなこは不幸な子で、母親や祖母からは冷たくされていた、君が一緒に住んでくれると聞いて佳奈子かなこは嬉しそうだった。そんな風に語る宮田健太みやた けんたは、穏やかな顔をしている。彼女を愛する人というだけではなく、親族のように大切にしていた。

「判りました、お願いします」

 宮田健太みやた けんたと一緒に私娼窟ししょうがいへ戻りながら、私は疑念を感じていた、もし彼が地下通路を使い家族を殺したとしたら? 佳奈子かなこを守るために、一家を全滅させようとしていたら? でもそれは私の思い違いだ。長女が少しでも悲しむ事はしないと思えた。

「あら、遅かったわね、ホテル? 」

 三杉良太みすぎりょうたが冗談めかして笑う。苦笑いをしながら宮田健太みやた けんたは、私をここに泊まらせたいと頼むと、ホテル代にしては安い料金で宿泊が出来た。
 
「ここはね、貧乏人が利用するから、ホテル代も安いのよ」

 けらけら笑う三杉良太みすぎりょうたは、出前を頼んで私たちにご馳走をしてくれる。ここにいつまでも居られたら楽しいと思えるくらいに、私は安心感を得ていた。その日はのびのびと一人でベッドを使える、とても深い眠りは奇妙な夢を見せる。
 
 私が何人も立っている、その一人がナイフを取り出すともう一人の私をナイフで刺した。少し離れて見ている私に、そのナイフを手渡す。
 
「私も殺して」

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 大きな音がする。

「……何? 」
 玄関でチャイムの音がうるさい。しばらくして私は起き上がると、誰かが玄関で騒いでいる、寝てる部屋のドアがいきなり開くと吉田守よしだまもるが立っていた。

「お前がやったのか?」

 ギラギラと光る目は殺意しか感じない。彼は血まみれの包丁を持っていた。私の中で何かが変化する、生存本能は絶対だ。すべてを優先させるため、体のリミッターを切る。本来なら出せない力を発揮はっきさせた。

 吉田守よしだまもるあご掌底しょうていで殴ると、ぐらりと体がゆれる彼は床に倒れた。彼は脳しんとうで動けない。私は右足で彼の首を踏みつぶす。

 しばらく踏んでいたが、もう彼は動かない。どれほどの時間なのか感覚がわからない。気がつくと加藤翔子かとうしょうこ刑事が私の腕をつかんでゆすっていた。

「良かった生きてた! 」
「え? 何があったんですか? 」
三杉良太みすぎりょうたは刺し殺されていたの、あなたが吉田守よしだまもるを? 」
 
 ろくに証拠もなく動機もない吉田守よしだまもるは、警察署から出ると私を探した。復讐のためだ。私が祖母の八代やよや母親の朋子ともこを殺したと勘違いする。そして私が私娼窟ししょうがいにかくまわれているのを知ると殺すために包丁を取り出し、三杉良太みすぎりょうたを殺めていた。

「私は……記憶が……」
 嘘だ、はっきりと覚えている。吉田守よしだまもるの首の骨を折った事を……

伊藤照子、正面の家の母親


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