死と記憶の無い少女、黒い家の惨劇(43/60)
第八章 主治医
第一話 素敵な主治医
あらすじ
児童養護施設から親戚に引き取られた櫻井彩音は、連続殺人に巻き込まれる、黒い家と噂される榊原家は父親と長女以外は殺された。彩音は家から逃げ出すと浮浪者の吉田守を殺してしまう。
黒い家で記者に囲まれて興奮した私はぶつかった取材者の一人を手の掌底で殴っていた。バスケをしていた私はボールを強く何時間でもバウンドさせられる。筋力がほかの女子よりも強い。下手すると男性よりも強いかもしれない。
両親が居ない娘だ、記者の前で興奮して殴るような性格ならば、殺人もするだろう。そんな記事が出ている。根も葉もないとは一概には言えないし、非難する気にもならない。
「今回は偶発的な事故扱いになります」
吉田守が死亡した事件は、三杉良太を襲った事件としてニュースになる。私の事は伏せられていた。お互いが殺し合ったと状況を変えられている。
殺人課の加藤翔子刑事は、私が未成年なのと精神的な問題を抱えている事も踏まえて入院による経過観察に決定した事を伝えられる。警備の仕方で警察に批判が集まるのも考慮された。
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「彩音君、おはよう」
家族のように挨拶をしてくれる主治医の斎藤輝政に、診察を受ける。家から逃げ出した事で私は閉鎖病棟に入る。
「榊原昭彦さんは、また君を家に住まわせたいと懇願していたよ」
主治医の斎藤は、いつものように穏やかで落ちついた笑みを浮かべている。私の人生の中で信頼できる人は彼くらいだ。もし彼が居なくなったら私はどうなるのか心配になる。
「今は落ち着いてます、あの家に……戻って良いんでしょうか?」
私も打算がある、児童養護施設は成人なれば、施設を出て行くことになる。家を持てない私は何かあった時に路頭に迷う、あの良太のように浮浪者になる。医者の榊原家は、私を住まわせるくらい余裕だ。内心は迷っているように見せているが、帰りたいと思う自分もいる。殺人が起きていても私は自分が狙われる理由がまったく無いので、他人事なのかもしれない。
「長女の世話をする人が欲しいらしくてね、君が適任だと熱心なんだ」
主治医はメモをしながら話する。たまに眉をひそませる彼は有能で俳優のように見える、私は変な夢想をする事もある。彼と結婚できたら幸せになれるのだろうか?
「でも記者がいっぱい居ると……」
「その点は大丈夫だ、近隣の住人からも苦情が出ている、取材は一切禁止になったよ」
記者が事件を追って解決なんて話はもう無い。彼らは事実を報道するだけのサラリーマンだ、連続殺人事件があったとしても犯人捜しまではしない。ただ犯人になりそうな住人の録画するのはためらわない。ニュースの時のソースになるからだ。
「そろそろ退院だ」
主治医の斎藤輝政は、退院したら私とデートしたいと笑っている。
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