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死と記憶の無い少女、黒い家の惨劇(36/60)

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第六章 家出
第六話 平和な一日

あらすじ
 児童養護施設じどうようごしせつから親戚に引き取られた櫻井彩音さくらいあやねは、連続殺人に巻き込まれる、母親の朋子ともこは客間で腹部を刺されて死んでいた。


「ここよ」
 三杉良太みすぎりょうたは、男性客を取るせいか女性らしい仕草で私を招き入れる。でも私から見れば彼は立派な若い男性にしか見えない。そんな彼が私を助けるのは、同じ女性の窮地きゅうちに手を差し伸べた感じかも? 

 古いアパートは、部屋数が多かった。そこは男性客を取るための仕事部屋だ。

「数人でシェアしている感じね」
 基本は共有なので、住んでいるわけではない。ベッドの上に座ると普通の部屋にしては簡素でやたらとタオルが干してある。
 
「緊張しないでね、襲ったりしないから安心よ」
 客層が完全に男性なので心配は無いと教えてくれる。私は、この非日常が面白く感じる。あらためて手を見ると私には傷はなく、相手の血だけだ。何をしようとしたのか記憶が無い。小学生の時にクラスメイトの口に手を入れた時と同じかもしれない。もう乾いた血は黒く手を染めている。
 
櫻井さくらいさん、手を洗いましょう」
 洗面台で手を洗い、キッチンでカップメンを出してもらう、そう言えば榊原さかきばら家の夕飯はどうなるのだろうか? 警察官が一杯いたので、なんとかなるかもしれない。私は三杉良太みすぎりょうたに礼を言う。
 
「ありがとう、なんかバタバタしてて」
「――ごめんなさいね、あなたを巻き込んだみたいで」
「私の方こそ、あの家だとなんか安心できなくて……」

 恋人を連行された三杉良太みすぎりょうたは、そわそわしながら私に気をつかう。逆に私が心苦しい、私が、加藤翔子かとうしょうこ刑事に、彼の恋人の事を教えたせいだ。

「私はあの人を愛してたのか惰性だせいだったのか、もう判らない……」

 彼は憔悴しょうすいしているように見えた。恋人の身が心配で眠れない。大好きな人が逮捕されたのに、何も出来ない。焦っている彼の話を聞きながら私は同じ部屋で眠る。誰かと一緒に居る安心感は、両親が居た頃の記憶しかない。子供の時のように安心して眠れた。

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 朝に起きると私は部屋の掃除をまかされる。学校をサボって男性向け私娼ししょうアパートを掃除する、私は殺人犯扱いをされているのだろうか? 広域手配をされているかもしれない。もし捕まれば私の病気が悪化をして暴れる可能性もある。

「もしかして本当は、私が殺したのかも……」

 自分の記憶が完全である保証はあるのか? 私は自分の知らないところで、誰かを傷つけていたのではないのか? 私には真実が判らない。自分が犯人だった場合の事を考える。病院で一生過ごす事になるのだろうか?


榊原昭彦(さかきばらあきひこ)


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