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SS 遠くの太鼓【音楽理論&顕微鏡&反面教師】三題話枠
「なにか聞こえるんですね? 」
先生はやや大きな声で診察を始めた、俺は耳鳴りがすると訴えて耳鼻咽喉科で調べたが異常はない。次に紹介された精神科の医者は
「幻聴の可能性もありますので、軽い薬を出します」
俺は薬を飲んで改善すると信じていた。
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「プロデューサー、耳鳴りは大丈夫ですか? 」
「薬をもらったよ……」
アシスタントが足早に去る、俺は打ち合わせを思い出したが気分が乗らない。耳なりがとまらない、いや何か言葉が聞こえる気がする。あの日からだ、あの女と面接してからだ。
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「音楽プロデューサーさんですか? 音楽理論の知識はあります? 」
気味の悪い女だ。知り合いから是非、会ってくれとメールされたので面接すると顔は整っているが、陰気で目が異常に感じた。病んでいる。
「私の音楽は最高なんですよ、聞いてください、聞けば判ります! 」
プレゼンスとして最悪で反面教師の見本だ、彼女は高慢で自信過剰で人を見下していた。面接の後で曲を試しに聞いてみると……ノイズだ。録音を忘れたとかではない、何か遠くで太鼓の音が聞こえる。音量調整に失敗したと思うが、すぐに興味がなくなる。才能以前に自分の作品を作れない、常識が無さすぎる。機材もろくに使えないのは問題外だ。
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「よろしくお願いします!」
にこやかに笑う若い女性は、椅子から立ち上がりお辞儀する。彼女はボーカロイドで曲を作成して動画が伸びていた、デビューをしたいと熱心で前向きに語る。
「いいね、この曲」
流行の曲調とテンポで再生数が伸びるのも判る。今の時代には、電子音声の方が受けが良い。作曲家のダイレクトな時代感覚を、切り取って見せるのに適していた。即時性が重要だ。今起きている刹那を抽出して見せる。
「あの……それで私の事を手伝ってもらった友人もいるんです」
面接は一人だと聞いていた。
「プロデューサーさんとお会いしたいので部屋に呼んでもかまいませんか? 」
「いいですよ」
迂闊だ、面会相手を調べていない。一階の応接室はセキュリティが甘かった。入ってきたのは、あの陰気な女だった。
「私の曲をなんで聞かないの! 成功したでしょ? 」
怒号が響く、私は立ち上がるとあわてて逃げた。耳が痛くなる。私は眩暈で倒れてしまう。平衡感覚が無くなっていた。
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「顕微鏡で細胞を検査してみました、三半規管からサンプルを取得してみると有毛細胞が損傷してます」
医者から耳の異常を知らされた。耳の奥に損傷が見られるので、休養を指示される。原因は不明だが、今でも彼女のノイズ混じりの曲のせいだと信じている。
なぜならニュースで多くの若者たちが体のバランスを崩して、エスカレータや階段から落下する事故が……
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