ご免侍 二章 月と蝙蝠(二十七話/三十話)
あらすじ
銀色の蝙蝠が江戸の町にあらわれる。岡っ引き達が襲われていた。謎の坊主に襲われた一馬は、女忍者のお月に助けられた。
翌日、事の顛末を同心の伊藤伝八に知らせようと立ち寄ると彼の顔色が悪い。
「一馬、御用金が根こそぎ奪われた……」
「蔵の管理は、どうした」
「商家の金蔵に一時的に保管していた」
岡っ引き達が襲われて盗賊達の動きが見えなくなる。市中の情報は岡っ引きが手下を利用して集めていた。ほんのささいな事でも、集つめれば、うっすらと形が見えてくる。
十手を奪われて面目を保てない岡っ引きに、情報は集められなかった。
「なるほど、十手持ちを襲う理由がそれか」
「用意周到に計画を立てても、漏れるときは漏れるからな、それを防ぐために岡っ引きを狙った」
くやしそうな同心の狐顔はゆがんでいる。
「これからどうする」
「岡っ引き達を呼び戻して、市中の警戒を高めるしかない」
「いくら盗られた」
「千両箱を一箱」
「それはきついな」
「御用金だからな、立て替えで商家が払う事になる」
(千両なら一生は、安泰に暮らせるか)
「旦那、ありがとうございます」
岡っ引きのドブ板平助が番所に顔を見せる。手には一馬が渡した十手を持っている。
「お返しします、新しい十手を用意できました」
「良かったな、お前のおかげで助かったよ」
黒光りする十手を受け取ると、一馬は礼を言う。目潰しは当たれたば行動不能になる。手ではらっても危険だった。
平助がニコニコとしながら両手を出した、お駄賃をねだる狸にしか見えない。
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