ご免侍 二章 月と蝙蝠(二十八話/三十話)
あらすじ
銀色の蝙蝠が江戸の町にあらわれる。岡っ引き達が襲われていた。謎の坊主に襲われた一馬は、女忍者のお月に助けられた。
一馬は番所から外に出るとまだ蒸し暑い、残暑の熱気で汗がふきでる。手ぬぐいで顔をふきながら歩き出した。
「きんぎょーへ、きんぎょー」
「ひやみずやぁ、ひやみずやぁ」
物売りの声を聞きながら市中をそぞろに歩く。自分の窮地を助けたのは、お月だった。
(月華……そんな名前だった)
抜け忍で、兄とは離ればなれなのは判ったが、彼女の目的がよくわからない。あの出会い茶屋で二人きりでいた時は、普通の芸者にしか見えなかった。
(なんで俺は、お月の事ばかり考えているのか)
惚れたのかと自問自答をしても判らない、ただ会いたいと思っている。
(もう早く忘れる事だ)
父の情婦の店へ自然に足がむかう。お仙の体を思い出して体が熱くなる。あかるい陽の光を感じながら何かを期待して、お仙の店に入ると中は薄暗く冷えていた。
「……お仙、いるか」
人の気配がない店は不自然に感じるほど物音もしないが、ゆっくりと物陰から姿を見せる女がいた。
「またあんたか……」
顔を出したのは、お月だ。かわいい顔をしかめながら一馬を、にらんでいる。
(なぜいる、お仙は無事なのか……)
「お月……何している」
緊張が高まると自然と腰の刀に手を伸ばしていた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?