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死と記憶の無い少女、黒い家の惨劇(32/60)

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第六章 家出
第二話 ホテルの電話

あらすじ
 児童養護施設じどうようごしせつから親戚に引き取られた櫻井彩音さくらいあやねは、連続殺人に巻き込まれる、母親の朋子ともこは客間で腹部を刺されて死んでいた。


 無機質なビジネスホテルの部屋に足を踏み入れるとため息が出る。安全な場所なのに憂鬱ゆううつだ。ホテルで使うエレベータの乗り降りは電子カードで制御されていた、自分の部屋以外ではボタンを押せない。部外者はエレベータを使えない。安心できる筈なのに……
 
護衛ごえいと言っても近くの部屋に泊まるだけよ」
 刑事の加藤翔子かとうしょうこは、榊原さかきばらの私の部屋から持ってきた下着を受け取る。刑事は、こんなに被害者または加害者に、親身になるのかな? と不思議に感じる。
 
「あの、佳奈子かなこさんは? 」
 遺伝子に関係する病気を持つ長女は、具合が悪いわけでもないが、それでも安静の状態で暮らしていた。母親も殺されたなら精神的な動揺どうようがかなりある筈だ。
 
「父親が見守っているから平気」
 医者の榊原昭彦さかきばらあきひこは、娘の病気を治したい。家族は次々と死んで、今は父と娘しかいない。大切な娘から眼を離したくないのだろう。
 
「犯人が狙う可能性は無いんですか? 」
 加藤の雰囲気が変わる、事務的と言うか冷たい目で状況を説明する。マスコミが大騒ぎして周囲の家から情報を集めている、人通りも多く、特定の家族を狙う連続犯は、ネット界隈でも注目度が高い。何よりも警察への批判がかなり強い、容疑者を逮捕しないと批判が殺到する。
 
「何かあの家族に関係する事を知らない? 」
 私は浮浪者の吉田守よしだまもるに関する話を教える、事件当日に玄関先に居た事や母親の朋子ともこと親好が長く続いていたと知らせると、加藤刑事は興奮した様子で携帯電話を使う。
 
「初耳よ……被害者と関係する男がいるのね、もしもし 小林さんですか? 容疑者になりそうなホシがいます……」

 加藤刑事が廊下に出て電話をしていると、ホテル側の備え付けの電話が鳴る。私は受話器を取り上げると、フロントからの電話だ。一階に榊原昭彦さかきばらあきひこが面会に来ていた。


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