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SS 人が誰も見ていないとき、月は休んでいる。#ストーリーの種

 人が誰も見ていないとき、月は休んでいる。母が寝ている時に、私は黙って深夜の公園へ行くのが日課だ。今は私が見ているから月は存在する。

水無月みなずきか? 」

 公園は、ビルに囲まれた小さなスペースにある。そこだけ特別な領域に感じた。もうしわけ程度にブランコや遊具が置いてあるが、誰が使うのか判らない。存在を忘れられた公園は、公園なのだろうか? 父はベンチに座っていた、私は密会するように父と会う。

「母は駄目みたい……」
「なら一緒に住むか? 」

 母は心を病んでいる。強い義務感と考えなくてもいいような心配事でこわれてしまった。母は病院も拒絶きょぜつして部屋に閉じこもったままだ。

「母を治療? 」
「同意書にサインして入院だね」

 父と住むか悩む。母は浮気が原因でおかしくなった。父は、今でも別居先で浮気した相手と住んでいる? 浮気相手が母になったらと考えると憂鬱ゆううつになる。


「誰と会っていたの? 」

 母は起きていた、リビングで私を見ている。ちょっと買い物といいわけして部屋に戻る。母と心の交流が途絶とだえていた、家族なのに他人に思える。邪魔とさえ思う。

「いってきます」

 誰もいないキッチンに声をかける。まるで儀式のように習慣で挨拶する。父も母も居ないキッチン、さみしいと感じない。居ないのが当たり前だ。だから、すっと背後に圧力を感じると逆に私は怖くなる。そこに存在している確かな何かが小さく、つぶやく

「あなたも、私を無視するのね……」

 母が居た、本能で別れが近いと知っている。母からは憎しみと悲しみと愛を感じた。腕をふりあげた母は、私の側頭部をこぶしで殴る……

 肩をゆすられて目をあけると叔母が心配そうな顔をしていた。私は下着姿で床に倒れている、制服が脱がされて肌寒いまま、ずきずきとする頭をおさえた。

「なにがあったんですか? 」
「お父さんが制服姿の女に殺されたって……」

 今でも母は見つからない、私の服を着たまま逃げたのだろうか?

 見られていない家族は存在しない。月は休むこともなく天空を照らせるのは、人が見ているからだ。母を見る人は、もう居ない。



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