死と記憶の無い少女、黒い家の惨劇(26/60)
第五章 やさしいお母さん
第二話 私の居場所
あらすじ
児童養護施設から親戚に引き取られた櫻井彩音は、連続殺人に巻き込まれる、母親の朋子は精神を失調する。
買い物リストを見るとやたらと時間のかかりそうな店を複数指定している。本だったり、裁縫用の布だったり、夕飯以外の買い物が多い。順番を考えて先に遠い場所から店を探す。スーパーで夕飯用の買い物をした時には、二時間は経過していた。
「あれ? 彩音ちゃん? 荷物大丈夫? 」
いつもの公園を通ると三杉良太が居た、私が会釈すると嬉しそうに近寄り荷物を持ってくれる。
「こんなに買い出しするんだ、大変だね」
三杉良太は浮浪者で、今は吉田守のテントに住んでいるという、それでも身なりはちょっとだらしない大学生程度なので、普通の若者と変わらない。
彼は男と寝て金を稼いでいる。男性が好きだという、確かに見た目は中性的に見えない事は無いが、私からすれば普通の男子学生と同じ感じだ。やさしい彼は女性的にも感じるので、一緒に居て気が楽だった。
「大変だったね、殺人犯はまだわからないの?」
動機がわからない、金貸しだった祖母の八代は近隣の住人からは嫌われていた、でも殺されるような恨みがまだ残っている? と考えると動機として薄い気もする。それに長男を殺した理由が判らない。でも練習相手に殺す可能性もある。
「警察もお手上げみたいで……」
「そうなんだ」
良太は空を見上げながら、眉をひそめる。彼は荷物は家まで持っていくと頼みもしないのについてきた。榊原家の近くまでくると吉田守が庭先から出てきた。不法侵入だ。
「お! 良太か」
「守さん、またなの? 」
一瞬だけ険悪な雰囲気になるが、良太の方が我慢をしている。私は礼を言うと荷物を受け取り家に戻る。吉田守は、裏口の空き缶を狙っているのかもしれない。吉田と三杉良太は恋人のように腕を組んで公園に帰って行く。誰かと一緒に居られる幸せを私は知らない。
「ただいま」
「もう帰ったの?」
奥から朋子が上機嫌そうに私から荷物を受け取る。ふと気がつくと階段の踊り場で、長女の佳奈子が、母親を凝視していた。私が見ているのに気がつくと、にっこり笑う。
「お疲れ様、彩音さん」
「お体は大丈夫ですか? 」
「平気よ、薬も飲んでいるし、大きな怪我をしなければ普通の生活は出来るの……」
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