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SS 人類の失火【チャッカマン&魔物&法定速度】三題話枠

魔物? なんだその通報は? 」
 パトカーの中で同僚が不機嫌そうな声を出す。火事で警察に連絡が来た、消防ではなく警察だから事件性があると判断して、巡回中の俺たちが呼び出される。

「魔物がいるそうだ、精神的な問題かな? 」
 幻覚や幻聴で炎が見える場合もある。住人が見えているモノは存在しなくても本人があると信じれば存在している。認知は通報した本人次第だ。

 家賃が安そうな二階建ての古いアパートに到着する。郵便受けは半分くらいは壊れていた。人が住んでいるのだろうか?

「○×さん、いますか? 警察です」
 チャイムを鳴らして扉を叩くが返事は無い、ドアノブを引くと開いた。鍵のかかってない部屋のドアから顔を入れると煙臭い、火事なのは事実か? ボヤ程度かもしれない。

「○×さん? 」
 部屋に上がると1DKでキッチンがある。ガスコンロを見ても燃え広がった様子は無い、壁も無事だ。煙草の失火しっかかもしれない、次の部屋に入ると、悪魔が座っていた。

「ん? 人間か? 」
 悪魔はチャッカマンを手にして、巻きたばこに火をつけて吸っている。仮装だろうと思うが、悪魔の前には住人らしき男性が、寝間着姿で倒れている。悪魔の生々しい赤黒いむきだしの皮膚を見ると偽物に感じない。

「どうしたんですか? 」
 同僚は黙ったまま腰の拳銃に手をかけている。俺は馬鹿みたいに悪魔に質問をしていた。悪魔は興味なさそうに俺たちを見ている。

「ああ、ビジネスだよ。魂の取り立て」
「男性は無事ですか? 」
「死んでるよ、魂を抜いたからな」
「現行犯で逮捕する! 」

 同僚が大声を上げて悪魔に銃を向けた、悪魔は長い爪で同僚を指さすと硫黄臭い赤黒い炎が吹き出て同僚を燃やした。熱というよりも浸食しんしょくされる感じだ、燃えるよりも溶けるに近い。信じられない高温で骨まで溶かして燃やす。煙臭いのは悪魔のせいだ。

「安心しろ、すべての人間じゃない、サタンから間引けって命令だ」
「悪魔とか居るんですか? 」
「悪魔も神も居るさ、今回は天使とも話がついている」

 彼は人類の壊滅ぼくめつを命令された悪魔の一人でしかない、地獄で生活できそうな罪人を選んでいた。

「お前は、生かしとくよ。これから通報も増えるだろうが無視しとけ」
 悪魔は、よっこいしょと声を出して立ち上がると、魔方陣まほうじんの中に入る。魔方陣まほうじんは転送や転移ができる、悪魔は部屋の中の住人を殺して回っている。そのまま魔方陣まほうじんが描かれた地面に吸い込まれた。

 俺はゆっくりと寝間着姿ねまきすがたの男性に近寄り確認するが死んでいた。同僚は服も備品の拳銃も無く、小さな灰の山しかない。俺は考えるのをやめて部屋を出た。同僚の行方をどう説明するか悩む。

 俺はパトカーに乗って法定速度を守りながら警察署に向かう。もう急ぐ必要は無い。パトカーの無線に連絡が入る。

「天使が空から降りてきて市民を殺して回っていると……」


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