SS 文芸サークル【数え歌&過半数&学生証】三題話枠
「一つとや 一夜明ければ 誰も居ぬ 誰も居ぬ」
「おいやめろ 辛気くさい…………」
同窓会で集まって飲むの六年ぶりだろうか、文芸仲間で小説を書くサークルに属していた俺は、会社の仕事がいそがしくモノを書く事も忘れていた。
数え歌を改変して歌うのは怪談が好きな、Sだ。彼はやたらと怪奇物を好んで書いていた。誰もが彼を変人として扱ったが、小説仲間はみなが変人みたいなものだ。
「Mは来ないのか? 」
女性のMはサークルの紅一点で、童話が好きな彼女は子供用の作品を量産していた、もちろん素人の我々は売れるわけもなく全員が趣味としての作品作りをして終わった。
「Mは死んだよ……」
「え? いつ死んだんだよ」
俺は知らなかった、もっとも学校を卒業してしまえば疎遠になり、連絡もろくにしていない。
「自殺だ……密葬だった」
Sはぽつりと語る。家族だけで弔いをしたと言う。最近は珍しくは無い、自殺ならば知られたく無い事もある。俺は彼女の素朴な所が好きで作品を読んでは評価していた、嬉しそうに笑う彼女は癒やしだった。
「そうか……この中じゃ一番売れそうだったのにな」
俺は乾いた笑いで、湿っぽくなりがちな雰囲気を変えようとする。Sはそんな俺を見て怒ったよう怒鳴る。
「ここの連中が殺したようなもんだよ! 」
俺は真顔になる。俺たちが悪い? と言いたいのか? 俺もけんか腰だ。Sの顔をにらむと、理由を問いただす。
「おいやめろ」「すんだことだ」「酒を飲め」
周囲が止めに入ると座が白ける。そのまま流れで解散した。
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俺は前日のSの剣幕でサークルで、もめごとがあっただろうと予想する。俺はMの女友達と連絡をしてみると事情がわかる、彼女は俺たちに出会う前にイジメを受けていた。過半数のクラスの女性達に嫌われていた。理由は単にクラスの人気者の男子の誘いを断っただけだ。
「当時はかなり落ち込んだみたいで……」
どうやらそれをネタに流用したメンバーが居た。もちろん悪気では無いのだろうが無断で了解も取っていない。それに気がついた彼女は……。
「それだけじゃなくて、色々あったみたいよ」
複合要因で彼女は命を失う選択をする。偶然が重なる悲劇だ。俺は心の中で彼女を……頭をふって忘れる事にした。
「……忘れるんだ……」
背後から声が聞こえた、俺が後ろを振り向くと道に学生証が落ちている。それを拾うと若い頃のMがさみしげな表情で写っている。俺は少しずつ思い出してきた、あの日はみんなで酒を飲んだ、俺たちは酔った彼女を…………泥酔した俺たちは全てを忘れていた。
「二つとや 二葉の松は、首くくり 首くくり」
背後から手で首を絞められる、俺はのたうちながら抵抗したが俺の背後には、何も居なかった……
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「おい、あいつが死んだって……」
Sは皮肉そうに笑う。
「みなが死ぬまで続く」
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