死と記憶の無い少女、黒い家の惨劇(22/60)
第四章 私の病気
第四話 嫉妬
あらすじ
児童養護施設から親戚に引き取られた櫻井彩音は、、第二の殺人が発生する事で疑われる。
「彩音、大丈夫か? 」
取調室で待っていると榊原昭彦が迎えに来た。必死な表情の彼を見ると、違和感もある。親戚の私の身をここまで心配するのが不思議に感じる。本当の父のように、私を気遣う。
「何があったんだ! 」
「こちらの落ち度です」
冷静さを欠いている昭彦は、殺人課の小林俊介に食ってかかる。
「彩音さんは、悪くありません。立ち上がると同時にバランスを崩して倒れたので、加藤が支えただけです」
加藤刑事は私の下敷きなっていた、私は指を痛めた。私は先に事情を説明されていたので、ほっとしていた。もし小学校の時のように私が加藤刑事の口を裂こうとしたら逮捕されている。
「さぁ、いくぞ、彩音」
「こちらは問題ありません、お大事に」
私は犯人として取り調べを受けてはいない、あくまでも参考人だ。私が八代を殴った証拠もないし、ハンマーの柄は木製で指紋は判別しにくい。そもそも動機が薄い。家族に虐げられたとしても殴り殺す必要もない。医者に相談すれば児童養護施設に戻る事も可能だ。ただ私には、さっきのような激高して記憶が消える病気がある。もし私が自分の知らない所で怒りに目がくらみ、ハンマーで殴っていたら?
「彩音、すまない。君のためにもなると思って引き取ったが、こんな状況に……」
「榊原さん、あなたは悪くありません。平気です」
そんな嘘で誤魔化せる位に、私は理性を取り戻していた。榊原昭彦は、私の肩に触れてタクシーを呼ぶ。暖かく大きな手に私は安心感がある筈だと、自分を騙す。
「君の命はとても大事なんだ、体に気をつけてくれ……」
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母の朋子は憔悴していた。長男と母親が死んで平気なわけがない。長女の佳奈子は、母を世話しながら家事をする。朋子は、気力が無くなっているように見えた。これでは、どちらが病人なのか判らない。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
なぜか上機嫌な佳奈子は、私を玄関先で送り出す。通夜もあるだろうが親戚が準備をしている、父方の親戚が対応していた。警官の巡回も増えていた。今は一番安心なのかもしれない。
玄関から出ると主婦らしい女性が立っていた、若いとは言えないが整った容姿は誰から見ても美人と言われる、そんな女性だ。
「あの、朋子さんは、いらっしゃる? 」
「すいません……今は体調が悪くて……」
宮田よしこと名乗る彼女は、息子に色目を使うなと警告する。
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