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殉教者 剣闘士マリウスシリーズ

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あらすじ
ティベリウス家の女主人のアレッサンドラから命令された魔獣を倒せるが、奴隷少女のアウローラが注目を集める。

アレッサンドラの娘のヘカテーの寝室に行くと待ちきれないのか、俺に口づけをする。興奮している彼女は魔獣の血を見て性的な興奮していた。俺に絡みつくように愛撫して愛撫を求める。彼女はまるで俺だけが世界の中心のように考えている。俺は奴隷でしかない。危険に思えた。その日も十分に楽しませると安心したように眠り始めた。

この屋敷の主人であるアレッサンドラ付きの奴隷の娘が近づいてくる。
「お話があるそうです」
俺は服を整えると女主人の部屋に行く。長椅子で酒を飲みながら俺を見ない。少しだけ酔いが回ったのか、焦点の合わない目で遠くを見ている。彼女は今でも美しい。ヘカテーが暴漢にケガさせられなければ、娘も極上の美人だった。そんな美しい女主人は俺に向かって
「あなたを自由市民にしてあげるわ」
魔獣を倒した褒美だと言う。誰もが倒せなかった危険な獣を倒した報酬としては妥当だ。俺に葡萄農園と金を渡すと言う。そして娘と結婚をしろ告げた。

「ヘカテー様と俺では身分が違い過ぎるのでは?」
「そんなものはどうでもいいの。娘はあなたを夫にしたいと言うの」
娘を愛しているのは判る。それでも元奴隷と結婚させるのは不思議な気もする。俺と結婚すれば、農園の妻でしかない。耐えられるのか?とも思う。

俺の考えを理解しているアレッサンドラは
「この条件を飲めないなら、ずっと奴隷兵士として戦う事になるわ」
奴隷に脅迫した所で意味はないと思う。俺はただうなずいた。ヘカテーと郊外の農園で葡萄を作って年老いて死ぬ生活。今とどちらが良いのかと問われても、俺には判断をつけられない。

女主人の部屋を出ると、ヤコポが待っていた。
「自由市民だって?いいなぁ。奴隷娘も連れて行くのか?」
奴の目当ては、俺の専属奴隷のアウローラしか無い。こいつがどれほど好きだとしても手柄も無いのに彼女を自由には出来ない。
「その話は後で決める」
無感情な目を俺に向けながらヤコポは殺気を出していた。驚くほど愚かな男だと感じる。敵対の意思を見せる結果を理解していない。

自室に行くとアウローラが嬉しそうに笑っている。彼女のこんな表情は初めてだ。魔獣との戦いで興奮が収まらない。
「アウローラ よくやったな」
彼女の手を取るとやさしくなでる。奴隷娘は嬉しそうに、そして潤んだ目で俺を見ている。俺はこの娘がどうなれば幸せになるか、責任を感じていた。あの貴族の暗殺の時に俺はアウローラを殺さずに見逃した。今は俺を信頼している。俺は彼女をどうしたいのか……

次の日は、大競技場で戦わずに処刑役として任命された。もう対戦は無い。競技場に引き出された罪人は、犯罪者には見えない。彼らは毅然として競技場の中に入ると大声で呪文を唱えている。

「宗教か?」
同じ剣闘士仲間のリッカルドが俺に向かって
「キリストとかいう救世主を信じているらしいな」
確か禁じられていたとは聞いている。彼らは同じ文句を何回も唱えていた。俺たちは、彼らをなぶり殺しにしろと命令される。
「なんで剣闘士にやらせるんだ」
俺は呆れながらも剣を抜く、リッカルドも剣を抜くと
「邪教だ。始末しないと社会が不安定になる」

俺は無抵抗な男や女を刺し殺した。競技場は大喝采とヤジで荒れていた。(もっと派手にやれ)(追い回せよ)(退屈だ)言いたい放題で俺は笑う。その集団の中に少女も居た。アウローラと歳も変わらない。俺は …… ためらった。少女はそれを見ると俺に近寄ると何かを手渡した。
「これをあなたに、きっと救いが ……」
背中からヤコポが少女を槍で串刺しにする。無感動に仕事をこなすだけ。生きて動いているものを追いかけて刺し殺す、奴は真面目だ。

俺は手の中にあるものを隠した。

続く

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