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惨劇の夜 剣闘士マリウスシリーズ

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あらすじ
自由市民を約束されたマリウスは、闘技場で邪教を信じる罪人の処刑をした。彼らは無抵抗で殺されるが、その中に居た少女がマリウスにあるものを渡して殺される。

闘技場を出るまで俺は手の中のモノを見なかった。少女は覚悟をした顔で死んだ。その決意の固さに心がゆらぐ。
「そこまで信じられるのか……」
俺は神を信じていない。ネプトゥーヌスが海から出てきてローマを救くうとは思わない。単なる空想。もし神が居たとしても、彼らから見れば人間は塵芥に見える筈だ。

手渡されたものは小さな石だ。なにか×のような印が刻まれている。彼女らの御守りと思える。俺は…捨てようと思ったが、なぜか死んだ少女の顔を思い出す。俺は捨てずに小銭入れの革袋に入れる。

夜になると俺とアウローラと俺はティベリウス家の女主人アレッサンドラに呼ばれる。

「あなたの自由市民の申請をしといたわ、明日からは自由よ ヘカテーと結婚して、葡萄農園で過ごしなさい」
彼女なりの優しさだと思う、ヘカテーは奴隷商人に乱暴されて顔に傷をつけられた。もう他の家に嫁ぐ気も無い娘の奴隷として生きろと言う。平和な日々かもしれない。

「お願いがあります アウローラの件です」
俺はアウローラを葡萄農園につれて行くつもりだ。だがアレッサンドラは勘違いをする。横で緊張するアウローラは息を飲む。
「その娘にも褒美が必要ね。なにかある?」

女主人のアレッサンドラは気軽に聞いた。魔獣を倒したのはアウローラだ、褒美を特別に与えようとした。奴隷少女のアウローラは主人に口を開く。
「一つだけ聞きたい事があります」

アレッサンドラはめずらしく、奴隷少女を直視する。
アウローラは
「私の父に借金はありませんでした」

俺は血の気が引いた。主人に反抗する恐ろしさは知っている。アレッサンドラはじっと娘を見ると
「あの男の所の娘ね」
酔いが冷めていた。退室させるために手をふった。
「知ってどうするの? 政治的な問題よ……」
止める暇も無い、細いナイフを抜くと女主人の左乳房を貫いた。

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アレッサンドラは声を上げようとしていた、俺は彼女の喉をつかむと潰す。声が出ない状態で彼女は絶命した。俺は彼女を布で包むと血が流れ出ないようにすると、長椅子の下に隠す。アウローラの手を引っ張ると自分の部屋に戻る。仕度すると剣と盾を取り逃げ出した。

ローマは夜でも十分に明るい。顔を隠して俺は道を歩くが行き先は無い。一番いいのは自害だ。拷問で苦しめられながら死ぬのはきつい。アウローラが手を引っ張る。
「こっち」
俺は引っ張られながら、彼女も俺が殺そうと考えていた。彼女は道を外れると、どんどんと寂しい場所に連れて行く。

そこはカタコンベなのだろうか?かなり古い。中に入るにしても闇が深すぎる。アウローラが入り口近くの火種とオイルランプを取り出すと明かりをともす。かがむように進むと内部はかなり複雑だ。
「ここはどこなんだ?」
彼女は
「祖父から教えられた秘密通路です」

俺は小部屋に入ると近くで水音がした。
「地下水路があります。そのまま郊外に出られます」
俺は一息ついた。
「どうする?ここで死ぬか?」
アウローラの顔を見ると、いつものように虚無を見ている。
「まかせます」
とだけ言うと口をつぐむ。

俺は疑問を口にした。
「さっき父親と言ってなかった?」
アレッサンドラを殺す前だ。彼女は
「私は娘です」
俺は寝所にいるので奴隷と勘違いをしていた。俺は案を出す。
「お前の親族に助けを求められないか?」
彼女はうなずく。

続く

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