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SS 梱包された劇 #爪毛の挑戦状

畳に座る。ふすまに夕日が映ると朱く染まり蝉が鳴いていた。「よしえ」と母の声がする。私は黙ってまま包丁を握る。

いつからだろうか、私は自殺する夢を見ていた。朝に起きると細かい部分は忘れている。でも夢の中で私は自分を殺していた。手を切って血を流す。畳を真っ赤にして血だまりの中で幸せを感じる。もう何も悩まなくても良い。

朝になると私を起こす手を感じた。「起きなさい」布団から出ると学校に行く。田畑しかない道を歩くと、いじわるをするクラスの女子が近づく。「服ダサイ」「ブス」なぜか短い言葉の方が私は傷ついた。彼女達は私をただ言葉で傷つけるだけ。

きっと一人で居るからイジメられるのかな?と思うが性格なのか、一人で居ると気楽だ。さみしくもない。「よしえちゃん」親しい友達が近寄ると、お話する事もある。ある日、その子とも疎遠になる。どうやら私と話すとイジメられる。私は孤立をした。

「あんた一人でさみしくないの?」大柄な娘が私を睨む。私は不思議だ。一人で居るのが苦痛となぜ感じるのか。「あなたはさみしいの?」彼女は私を突き飛ばした。そして私が殴ったと先生に言う。クラスの全員が彼女が正しいと証言をした。

私は部屋で包丁を握る。私が居なくても世界は困らない。夢を現実にすればいいだけだ。「よしえ」祖母が部屋に入ってくると、私の前に小さな木の箱を置いた。「この中を見てごらん」私は自然と箱の中身を見る。その中にはクラスの子供達が居る。

「その包丁を使いなさい」祖母が私の手を取ると、包丁で箱の中のあの大柄な娘を刺した。「私もおばあさまから受け継いだのよ、お前は弱い子だから使いなさい」私は目が覚める、母が私を起こしている。「学校よ」

教室はしんっと静まりかえっている。大柄な娘が自殺したと言う。その後は私のイジメも無くなった。たった一人の同級生が皆に指示を出していただけだ。元凶さえ消えれば問題も消えた。

頭の中の木箱はいつでも使える。箱の中を見ると梱包された劇のようにドラマが映る。人を害する人間を刺せばいい、元凶が消えれば世界は平和だ。私は友を作らないが、それだけ公平で公正な判断ができる。人に操られない、人に迎合しない、人を裁くためには孤独が大事だ。

部下が部屋に入ってくる。「総理 世界平和会議が始まります」

終わり


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