マガジンのカバー画像

雑多な怪談の話

180
雑多な怪談話を入れます 写真は https://www.pakutaso.com/20170603152post-11830.html を利用しています
運営しているクリエイター

#小説

SS 新しい母【#雨を聴く】シロクマ文芸部参加作品 (870文字位)

 雨を聴くと心がおだやかになる。心音のように規則正しく地面を叩く、ザァザァザァ、血液が体を流れる音と同じだ。 「かずみぃ」 「なぁにぃ」  ザァザァと心音がする。母は階下から私を呼んでいる。ゆっくりと台所の母に会いに行く。父と母が座っていた。 「かずみ」  父が沈痛な顔で私を見ている。 「父さんは再婚するよ」 「……そうなんだ」 「部下の女性なんだが、とても家庭的なんだよ」 「うん……」  母は黙ってうつむいたままだ。 「それでな、お前が学校を卒業した後に籍を入

怪談 水茶屋の娘 【#赤い傘】シロクマ文芸部参加作品 (1600文字位)

 赤い傘を見つけると走り寄る。しとしと霧雨がふりはじめた。 「おみつ」 「真さん」  おみつは、年の頃は十七くらいの水茶屋の看板娘で真之介とは仲が良い。仕事の合間に近くを通ると茶を飲んだ。みなに好かれる娘で、誰かれなしに愛想をふりまいていたが、真之介とは本気の恋仲だ。 「あのな……」 「これ、きれいでしょ」  くるくると赤い傘を回す。おみつは自分が店に出る時は、その傘を置いて客に知らせていた。赤漆のきれいな傘だ。 「縁談が決まった」 「……」  おみつは前を向いた

SS 私の見える世界 【色企画 第二弾‼︎】#新色できました(430字くらい)

 色は眼から入り色素を感じる受容体で識別する。だから色を人によっては同じ色とは限らない。 「まだお若いのに、ご愁傷様です」 「本当に、これからなのに」  父は憔悴しているが、母はそれほどは悲しんでいない。見えていたから…… 「かわいそうだけどね、しょうがないわ……」  母は私の頭をなでながらため息をついている。母は人が死ぬ時の色が見える。【霊色】を感じられる。いわゆるオーラだ。 「こうなんか体全体から、もやが出ていて色がついているの……」  母は私にだけは教えてく

SS 赤い靴【#白い靴】 #シロクマ文芸部

 白い靴を見つめる。真新しい白い長靴はおかあさんが新しく買ってくれたけど、ぶかぶかで歩くと転びそうになる。 「大丈夫、すぐに大きくなるから……」  おかあさんは、なんでも勝手に決めてしまうので困る。ぶかぶかだから足をぶらぶらさせると、ゆるゆるする。 「赤い色が良かった」  赤い靴♪ はいてた♪ 女の子♪  悲しげな歌は、今の自分にはぴったりに思えた。大人は何もわかってくれない。  イジンさんに♪ 連れられて♪ いっちゃった♪ (イジンってなんだろう?) 「イジ

怪談 湖畔の古い旅館

「この旅館だ」 「古い旅館ね」  オカルト好きな俺と彼女は、幽霊が出ると噂の旅館に泊まる。静かな山奥の旅館は、古い湖畔のそばに立っている。 「いらっしゃいませ」  年老いた仲居は、皺だらけで表情すら判らない。薄暗い廊下は電灯もついてない。 「ここです……」 「まぁきれい」  窓から見える静寂で深い湖は緑色に染まり、ぞっとするような雰囲気でシュチエーション的に最高だ。 「幽霊でるかもな……」 「楽しみ」  脳天気な彼女は、マニアック過ぎて俺は飽きていた。彼女は本気

SS 井戸の鬼【#子どもの日】 #シロクマ文芸部

 子どもの日が来た。村の大人達は数日前から準備をはじめている。僕は親戚の縁側で足をぶらぶらさせる。畳で横になる従姉は、だるそうだ。 「端午節って何?」 「鬼に憑かれない支度……」  親戚の家にGWにおとずれるのは初めてで父親は親戚たちといそがしそうだ。  従姉は十六歳で県内の高校に通っている。 「小さな子は、鬼になるからね……」 「……迷信だよね」 「前に端午節を、さぼった子がいた」 「それで」 「鬼になった」 「嘘だ」 「なったよ、だから井戸に落としたんだ」 「……

SS 夜に走る【夜行バスに乗って】豆島圭さん企画参加作品

 夜行バスに乗ると疲労気味の運転手がうつむいていた。バスの運転は激務と聞いている。心配だ。 (事故が起きたら……)  薄暗いバスの通路を歩くと座っている客は外国人が多い。田舎の研修場から都内まで逃げるつもりなのか。  その時に眼のすみに奇妙な人間を感じた。夜行バスのトイレの横の席で、フードをかぶった男? が座っている。外人なのかもしれない。  激安の新宿行きのバスだ。どんな奴が乗っているのか判らない。一番後ろの席に座ると眼をつむる。 xxx 「……サービスエリアに

SS マッチおじいちゃん #爪毛の挑戦状

 小雪がちらつく夜の街角で、スカート姿のおじいちゃんがマッチを売っている。 「マッジいらんがね」  野太い声で、歩いている市民に声をかける。もちろん大体の人は、驚いた顔をすると逃げてしまう。老人の頭がイカレていると思われていた。 「マッチくれ……」 「金貨一枚だ」  ぼったくりのような値段でも、太った客は興奮したように革袋から金を出して渡す。 「こっちだ」 「ああ……早くしてくれよ」  暗く冷たい裏路地に、二人で入るとマッチ箱を客に渡す。 「使い切るまでだ」 「

SS ツノがある東館 【一行目で惹きつける】#毎週ショートショートnoteの応募用

 大腿骨が白く透き通るように美しい。彼女は口の端を曲げて笑う。 「ありがとうな」  xxx  東館にはツノがある、物理的に出ているツノだ。 「このツノを外したいんですね?」 「隣が高層マンションになるので……」  その建物は江戸時代から残っていた蔵だ。もう白くもない漆喰は傷みが激しく、ひび割れている。 『鬼蔵』  近所では有名なツノが生えている蔵だ。鬼瓦でびっしりと装飾されている奇怪な蔵は、遺言で取り壊すな、と厳命されていた。 「費用は?」 「こちらで払うので

SS アメリカ製保健室 #毎週ショートショートnoteの応募用

「これがアメリカ製保健室なのか?」 「そのようですね」  陸軍の大将が敵から鹵獲した不思議な筒を見ている。それは魚雷にも見えるが、推進器は無く、ハッチがあるだけの筒でしかない。 「どうやら、安眠できるだけではなく各種ガスや薬品で治療もできるようです」 「つまりこの中で寝てると体が治るのか?」 「最新技術ですね」  内部を見ると固定する器具や回転するクランクのような装置もある。 「さすがアメリカだな、自動的に体が治るなら真似して作れ」 「はぁ……解析するまで時間がかかり

SS 梱包された劇 #爪毛の挑戦状

 深夜になると劇が始まる。  男の前で少女が手を広げて頭をさげる。ゆるく緩慢な手足の運びは糸で操られているように、ぎこちない。 「もういい……」  男は手をふると少女を下がらせた。次の少女が踊りを始めるが男は誰も選ばない。 「おりませんか」 「舞台に出せる子はいないよ」 「またきてください」  場末の酒場で少女を踊らせて一流になりそうな女優を探しているが、そうそう見つからない。男はあきらめたように自分の部屋に戻ると、箱が届いていた。 「郵便か……」  送り主は、

【掌編小説】リレー小説⑤(これってひよこの挑戦状?)#電車にゆられて(Love the PTA Toshi Inuzukaからの続きで)

 暗いトンネルを走っている最中は、車内に薄暗い電灯がついている。車掌が、ゆっくりと後方の車掌室の車両に向かう。  たまにゴトゴトと音がするくらいで静まりかえった車内には、六割くらいの客がいるのに話し声も無い。列車の天井を見ると古くさい水色の扇風機が回転している。 「あんた、弁当を買ったのか?」  通路をはさんだ横の席の男が俺に声をかけたきた。 「いや弁当は買ってない」 「そうかぁ、ここの駅弁はおいしいよ」  それだけ言うとまた食べ始める。しばらく見ていると延々と食べ

SS 家出の少女 【ありがとう】 #シロクマ文芸部

 ありがとう、ごめんなさい、さようなら。 「家出ですか……」 「家出です」  行方不明者届を受理した、警察官の私は事情を聞くために、その家に立ちよる。母親は娘を心配している様子はない。書きおきを見せてもらうと稚拙な字で殴り書きされていた。 (毒親ってヤツかな……) 「高校生の娘さんですか」 「そうよ」 「友達の家に泊まってるかもしれませんね」 「そうね」  うつむいている顔は、悲しそうにも見える。ショックで反応が鈍い場合もある。 xxx 「どうだった」 「若い母

【掌編小説】リレー小説③(日出詩歌さんの続きです)#電車にゆられて

 水車の音が小さくなり音が消えた。目の前の女性は無表情に指を突きつけたままだ。凝固した世界は息するのもむずかしい。息が荒くなる。 「……俺は死んだのか」 「まだ生きたいんだ」 「死にたくない」 「生き返っても悪い事しかないかも?」 「俺はなんで死んだ」  女性の顔は、ゆっくりと輪郭が崩れるとめまぐるしく相貌が変化する、少女だったり主婦だったり、老婆だったり娼婦だったり。 「やめてくれ、やめてくれよ」 「あなたが殺した人たちよ」 「ここは地獄じゃないのか」 「あなたは誤解