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創作民話 関係

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#シロクマ文芸部

SS 戻った男 【#紫陽花を】シロクマ文芸部参加作品 (910文字位)

 紫陽花を手に取りハサミで切り取る。毒はあるが煮詰めれば薬として使えた。  吊られた蚊帳の中で畳の上にあおむけに女が横たわっている。青白い顔で生気がもう無い。 「ケホケホ……」 「姉さん、お薬よ」 「もういいわ……早く死にたい」 「いつも、そればかりね」 「だって苦しいんだもの」 「あの人が帰ってくるわ」 「戻らないわ」  姉の許嫁は、仕官のために武者修行で旅している。剣客として認められれば俸禄をもらい家を持てた。姉と私は戻らないと確信していたが……  雨が降り続き、

SS 竜になる金魚 【#金魚鉢】シロクマ文芸部参加作品

 金魚鉢は丸くて小さくてジャリも入ってない。 「がっかりだよ……」  リュウキンの俺はシロとアカの鮮やかな体で金魚鉢の中央に浮かぶ。夜店の金魚すくいでつかまった。今は金魚鉢に入っている。 「昭和かよ……」  金魚鉢は古く今にも壊れそうでヒヤヒヤする。子供が近寄ると金魚鉢をコンコンと叩いて喜んでいる。俺は水面から顔を出して文句を言う。 「おい、エサあるのか?」  子供はびっくりした様子だったが金魚のエサを持ってくる。水面に落ちたエサを食べ終えると 「金魚飼育セット

SS 食べる夜 #シロクマ文芸部

 食べる夜が近づいてくるのは本能で判る。 「もう別れようか? 」  蛍光灯の下で見る男の顔は幽霊みたいに青白い。もちろん本物は見たことは無いし居るわけも無い。冷たく汗ばむ体から体温が急激に下がる感覚、見捨てられる事の恐怖よりも生理的なさみしさで体が小刻みに震える。この感覚になれるとは思えない。 「飽きた? 」 「そうだな、体が冷たすぎる」  私は体温が低い。肌を合わせても、お互いの肉の冷たさばかりを感じる。それでも私は男の熱が欲しかった。男を食べたい、夜に食べたい。狂う

SS 穏やかな一日【平和とは】グロ描写あり #シロクマ文芸部

 平和とは戦争が無ければ存在しない。 「平和だなぁ」 「戦争中ですよ」 「馬鹿だな、ずっと平和なら平和を実感できないだろ? 」  古参兵が屁理屈で煙にまくと、新兵が腕時計を見る。 「敵の突撃の時間です」  新兵が古参兵と一緒に塹壕の中で準備する。古参兵は、めんどくさそうに新型の水冷重機関銃を塹壕に設置した。機関銃は弾を長く発射すると銃身が熱くなり最後はつまる。水冷式はその心配が無い。 「敵兵を皆殺しだ! 」  邪悪そうな顔で古参兵が待機していると時間通りに敵の準備砲撃が

SS 戦場の愛【愛は犬】 #シロクマ文芸部

 愛は犬へ返したい。戦いは膠着するとひたすら消耗戦になる。使えるモノはなんでも使う。 「はぁ、新しい兵器ですか……」 「かわいいですね」  新兵が犬の頭をなでる、老犬なのかおとなしい。古参兵が苦い顔をしている。 「軍曹、犬の餌どうするんですか? 」 「いらんだろ、これは兵器だ」 「犬でしょ」 「犬の兵器だ」  軍曹は黙って説明書を渡すと指令所に戻る。古参兵と新兵は、犬の説明書を読むとうんざりした表情になる。 「犬に爆弾くくりつけて敵兵を吹っ飛ばせ? 」 「自爆兵器で

SS 冷宮【秋が好き】 #シロクマ文芸部

 秋が好きなのは、私が秋華だから。姉は春華、紫禁城で行方不明になり探しに来た。  宮廷に広がる池を見ながらため息が出る。姉は冷宮に、いる事が判る。ここは、冷遇された姫が来る場所だ。  池は広く蓮がおおっている、秋の空を見ながら私は心を休める。美人の姉は、親戚から金を持たされて紫禁城に入ったが王から寵愛されなかった。戻ってくるように手紙を出したが音沙汰が無い。 「秋華、もう寒いから部屋に戻ろう」 「妙光、もう少しだけ……」  彼は宦官で、男ではない。美男子なのにもったい

SS 上意討ち【読む時間】 #シロクマ文芸部

 読む時間は不要だった。「上意」とだけ書かれている。左衛門はヒゲをむしりながら下人から受け取った書面を見ている。 「俺が討つのか」 「兄上」 「吉五郎、なんだ」  左衛門の弟が部屋に顔を出す。博打で金を無心にくる以外は顔を出さない。江戸時代の次男は捨て扶持で厄介者だ。長男が死なない限りは妻も持てない。 「婿入りが決まりました」 「柳沢の家か。よかったじゃないか」 「おつゆ殿は、美しく私は幸せです」  婿入りをすれば、その家で主人として扱われる。男として認められる。弟

SS ちっちゃな願い【秋桜】 #シロクマ文芸部

 秋桜の花びらが落ちる、大きな花びらは地面にふりつもると歩くのが大変だ。 「秋桜の花びらは大きいからね」 「当たると危ないよね」  双子のミルとモルは、薄紅色の秋桜の森を抜けて家に戻る。今日は大事な話があるから早く帰らないといけない。  ミルは女の子、モルは男の子でとんがり帽子をかぶっている。妖精の姉弟は、とても小さく身長は人間の指くらいしかない。 「ただいま、何の話?」 「おかえり、今日は修行の話だよ」 「人間にサービスするのね」 「妖精だからね、人へ奉仕しなくちゃ

SS サーカスの馬【りんご箱】 #シロクマ文芸部 ※悲しいので注意

 りんご箱に子馬が顔を入れる、器用にりんごを箱から取り出すとカリカリとかみ砕く。 「めんこいの、まふゆ」 「ゆり、お別れだから」  父親が少女の手を引くと馬小屋から連れ出す、子馬は売られてしまうので、おいしいリンゴをあげた。真っ白な子馬だから、まふゆと名付けた。 「サーカスに売られるの?」 「珍しい色だからな、きっと人気になるさ」 「サーカスって怖くない?」 「怖くないさ、怖くない……」  歯切れの悪い父親の顔を見ながら少女は心配になる。 xxx 「ゆりさん、ゆり

SS サーカスの馬※解決編【りんご箱】 #シロクマ文芸部

※BGMにどうぞ  りんご箱を見ると涙がとまらない。まふゆは泣いている子馬を見捨てた。  悲しげな声が耳に残る、激しい後悔と苦悶を感じて、まふゆは猿に相談する! 「なんでゆりちゃんをサーカス団に行かせた!」  古来から馬の守り神とされる猿は、神通力を持っている。猿は印を結ぶと真言をとなえた。 「おんあびらうんけんそわか」  巨大な猿に変化すると、まふゆを抱きかかえて、そらかける。漆黒の天空を豪速で駆け抜けた。あまりの早さに月さえもあわててよける。 「あのサーカス団

SS 中国の怪談 【紅葉鳥】 #シロクマ文芸部

 紅葉鳥を手に取ると口いっぱいにほうばる。油で炒めてゴマをちらして食べると絶品だ。男は夢中になって食べている。  男は河南省北西部にある洛陽の街を出て旅している。行商人の彼は街を行き来して稼いでいた。今回は道に迷い山中に家の灯りをみつけた。 「ちょうど夕飯です」  扉を開けて女が顔を出すとやつれているように見える。金を払う約束をして泊めてもらう。  夕飯は食卓の皿に山盛りにされた鳥の足だ。鳥の足が真っ赤にゆであがるので紅葉鳥といわれている。カリカリとしながらも汁気があ

SS 切腹【最後の日】 #シロクマ文芸部

 最後の日にnoteでショートショートを書いてみる。noteが閉鎖されると聞いたときは、サービス終了特有の鼻がツンとするような悲しさを感じた。 「○○さんのお題で一杯、書いたなぁ」  もう何年も前に消えた人のお題で話を作っていた。誰が喜ぶでもなく意味の無い行為かもしれないが、義理で書いていたと思う。 「△△さんも来てない」  コメントをもらってコメントを返す。そんな単純な事がとても嬉しかった。いつしか縁遠くなると彼女も見かけない。 「最後はこんなもんか……」  誰

SS 竹林の宿【新しい】 #シロクマ文芸部

「新しい道か……」  後ろから声が聞こえる。盗賊はしくじった自分を呪う。商人の家を襲って大金をせしめて逃げられると算段したが、警備が厳重すぎた。 (とにかく逃げないと、拷問されて死刑だ……)  自白で罪を認めない限りは有罪にはならない、過酷な拷問は死ねないが体が戻らないくらいに厳しい。  山に逃げ込んだが、後ろから松明の火も見える。追い立てられる恐怖で暗闇の中を手探りで逃げた。いつしか獣道だろうか、踏み固められたような道を歩いている。 (登っているのか……)  山

SS イルカの浜 【春と風】 #シロクマ文芸部

 春と風の季節になると、ついぼんやりと海を見たくなる。弟が戻ってくるとは思わない。 「姉さま、いってきます」 「ご無事をお祈りしてますよ」  防人になるために漁師の弟は連れて行かれてしまう。何年も何十年も現地で、敵から国を護るために、一人さびしく暮らしていると思うとかわいそうだ。 「また海を見ているのか……」 「つい弟の事を考えて……」  夫は同じ村の漁師で、やさしい人だ。私は幸せだと思う、そう思いたかった…… xxx  青い空の雲が早く流れている。春先の風が強い