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SS サーカスの馬【りんご箱】 #シロクマ文芸部 ※悲しいので注意

 りんご箱に子馬が顔を入れる、器用にりんごを箱から取り出すとカリカリとかみ砕く。

「めんこいの、まふゆ」
「ゆり、お別れだから」

 父親が少女の手を引くと馬小屋から連れ出す、子馬は売られてしまうので、おいしいリンゴをあげた。真っ白な子馬だから、まふゆと名付けた。

「サーカスに売られるの?」
「珍しい色だからな、きっと人気になるさ」
「サーカスって怖くない?」
「怖くないさ、怖くない……」

 歯切れの悪い父親の顔を見ながら少女は心配になる。

xxx

「ゆりさん、ゆりさん」
 夜中に誰かに起こされる。布団で目を覚ますとたたみの上に、まふゆが立っている。

「まふゆ……家の中に入っちゃ駄目でしょ」
「最後の夜なので、お散歩しましょう」
「まふゆに乗るの?」
「そうです、森に行きましょう」

 暗い夜に真っ白な子馬に乗る、少女を乗せた子馬は壁を突き抜けて、星空の世界をかけめぐる。さらさら流れる天の川、ピカピカ光る金星、土星の輪の上を走って回る。

「まふゆ、楽しいね」
「私はサーカスに売られます、こうやって毎日走ります」
「私も走りたい」
「では交代しましょう」

xxx

 目が覚めると馬小屋だ、目の前にりんごの箱があるので、長い顔を入れてカリカリと食べる。甘くすっぱいリンゴは、とてもおいしい。

「まふゆ、そろそろ、ゆりを連れていくぞ」

(あ! おとうさん、おとうさん、私はどこに行くの?)

 栗毛色くりげいろの子馬は、真っ白な髪の少女に連れられてトラックに乗せられる。

 悲しそうな子馬は、少女と父親を見ながら涙を流す。

(おとうさん、おとうさん)

 トラックは出発する、子馬は泣いている。いつまでもいつまでも見送りながら、まふゆの目から涙があふれる……

(ごめんね)

 そっとつぶやいた。

#シロクマ文芸部
#りんご箱
#童話



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