幸せな働き方とは? 教えて、前野先生!
世の中に幸せな働き方を広めたい。でも、そもそも「幸せに働く」って、どんなこと? まずは幸せのエキスパートに聞いてみよう!
そこで「幸せな働き方伝え隊!」がお話を伺った先は、「幸せオタク」を自認する前野隆司教授。どうすれば幸せに働けますか? 前野先生、教えてください!
仕事の付き合いを超えたつながりを
幸せの研究者の立場からシンプルに言うと、幸せに働くためには、仕事自体の「やりがい」に加えて、人間的な温かい「つながり」を感じられることが大切です。
日本の企業は元々、働く人たちのつながりを保つことが得意だったのですが、リーマン・ショックの後ぐらいからでしょうか、非正規雇用やジョブ型雇用が増えていきました。とにかく会社の中にあるつながりを断ち切って、アメリカの競争社会の真似をするようになってしまった。
――先生がおっしゃる「つながり」について、もっと詳しく知りたいです
僕が言う「つながり」は、信頼関係、お互いを尊敬・尊重する関係。もっと言えば、愛情のある関係ですね。こうしたつながりが多様であればあるほど、幸福度は上がります。
大前提として、所属するチームや部署の中でお互いが連携を深めることは、とても大事です。こうした狭くて濃いつながりに加えて、隣とか斜めとか、組織図を超えたつながりもあった方がいい。弱くてもいいから、縦横無尽につながっている状態が理想的です。
昔は多くの日本企業が社員旅行や運動会をやっていましたよね。今ではすっかり廃れてしまいましたが、ああいう機会があると、仕事の付き合いを超えたつながりが社内のあちこちに生まれやすい。
孤独が幸福度を下げる
――働く人にとって、多様なつながりを持つことの利点は何ですか?
人はそれぞれの置かれた環境やライフステージによって、様々な悩みや苦難を抱えています。新入社員であれば、右も左も分からず、仕事で失敗して落ち込むこともあるでしょう。仕事と育児の両立や、仕事と介護の両立に悩む人、自分の将来やキャリアに不安を感じる人も多いはずです。
でも、こうしたことの多くは、みんなが通っていく道ですよね。一人で解決しようとすると孤独で答えが見つからないけれど、弱くても多様につながっていると、同じ経験をした誰かに相談できるじゃないですか。
今は会社だけじゃなくて、地域の結びつきも弱くなっています。核家族化が進み、長屋住まいの近所づきあいのようなものはありません。職場でも地域のコミュニティでも孤独を感じると、幸福度は下がるばかりです。
「多様なつながり」は会社の資本
――多様なつながりは、仕事の上でもプラスに働きますか?
いわゆる定型業務をこなすだけなら、数人のチーム内で完結できてしまう。ですから、多様なつながりを持つことは無駄に思われがちです。
しかし、非定型の業務となると、そうはいきません。例えば、ゼロから何かを生み出すようなイノベーティブなことに取り組むときや、不慮の事態に直面したとき。チームの中だけでは対処できず、「さあ、困った」「誰に聞いたらいいだろう?」となってしまう。その分、初動が遅れますよね。
ところが、メンバーがチーム外や社外にネットワークを持っていると、知恵や経験を持った誰かにたどりつけます。解決策が見つかり、良い仕事ができるから、結果的に生産性も上がります。つまり、働く人が多様なつながりを持つということは、その人自身にとどまらず、会社にとっても大きな資本になるのです。
VUCA(*)の時代とも言いますが、世の中の変化は早く、そして大きい。AIの発達や環境問題、貧困問題、戦争・・・・・・。様々な問題が複雑化し、先を見通すことが難しくなっています。
数人のチームだけで籠もっていても、複雑化する問題や変化には対応できません。弱くても多様なつながりを持つことは、孤独や不幸せになることを防ぐ社会関係資本であり、働く人と企業の双方にとって、ますます重要になっています。
――どうすれば、社内に多様なつながりが生まれますか?
まずは、社員同士が対話する機会を増やすことだと思います。いきなり「仕事の悩みをシェアしましょう」と呼びかけても、参加のハードルが高すぎます。お菓子を食べる会とか、美味しい晩ご飯を食べる会とか。話題は簡単なテーマでいいんです。まずは仲良くなって、それから徐々に深い話をすればいいのです。
特に今の若い人たちは、昔のような体育会の乗りで強引に誘われても行きません。やっぱり、「楽しそうだな」と思わせる仕掛けをつくることでしょうね。会社の補助でビールを1本サービスしたり、食事代の一部を補助したりするのも一つの手です。
経営者が幸せに向き合うための三つの段階
――働く人の幸福度を上げるため、経営者にはどんな姿勢が必要ですか?
経営者には三つの段階があると思います。一番いけないのが、「仕事は苦しくていいんだ。根性でやれ」(①)というスタンス。日本では歴史的、文化的な影響もあり、「仕事はつらいものだ」と受け入れてしまう人が多いように感じます。これは経営側だけでなく、労働者側にも言えることです。
その次の段階が、「会社の生産性や利益を上げるためにウェルビーイングに取り組む」(②)というスタンス。働く人たち自身は「自分ごと」としてウェルビーイングを求めるわけですが、会社のトップは施策の一つとして捉えがちです。
働き方改革や福利厚生、ダイバーシティ・インクルージョンと同じように、ウェルビーイングのための部署を作って担当を置き、予算を割り当てる。あとは担当者に任せておけば社員の幸福度は上がるだろう、と思ってしまうんですね。
しかし、箱だけ作っても、トップが心の底から「うちの社員には幸せでいてほしい」(③)と思っていなければ、うまくいきません。
私はいろいろな経営者とお会いしてきました。今では③にたどり着いたけど、かつては①のスタンスだったという人も少なくありません。昔はスパルタ式で経営していて、あるときに行き詰まり、②の段階へ。そして、社員の幸せを「自分ごと」として本気で考えるようになる。そんなストーリーを持った会社が多いんですね。
「地道にコツコツ」で幸せになろう
――最後に、幸せに働きたいみなさんへメッセージをお願いします
私が幸せの研究を始めた15年ほど前に比べると、ウェルビーイングの重要性はかなり認識されるようになりました。しかし、その裏を返せば、ウェルビーイングな状態ではない人が世の中の大多数だということです。
やっぱり、人は幸せに生きるべきだと思うんです。
そして、粘り強く取り組めば、必ず幸せになれます。これは、健康と同じです。例えば、食べ過ぎで体重が増えてしまった・・・。そんなときは、運動をしたり、食事を管理したり。体は嘘をつかないので、地道にコツコツやれば、やがて体重は減っていくはずです。
それでは幸せになるために、どんなことをコツコツやればいいのか。例えば笑顔になるとか、「今日も花がきれいだな」と感じてみるとか、人と話をするとか。小さなことでいいんです。
「自分なんてどうせ幸せになれない」「うちの会社じゃ無理」とすぐに諦めたり、三日坊主になったりするのが一番よくない。とにかく、続けることです。腕立て伏せだって、毎日やらないと筋肉がつきませんよね。
最近、コスパとかタイパって、よく言うでしょう。しかし、簡単に痩せられる方法がないのと同じで、簡単に幸せになれる方法ってないんです。劇的に変わろうとしても、うまくいきません。
一度幸せになると、やめられなくなります。僕自身、「幸せオタク」なので、幸せにつながることをやっていないと、何か落ち着かない。「一人でいる方が楽だな」と思うときでも、誰かと話をしないと何かムズムズしてしまう。ジョギングが日課になっている人って、走らないと気持ち悪いですよね。あれと同じです。
ですから、みなさんも地道にコツコツ、取り組んでみてください。
もっと前野先生の話を聞きたい!という方は、こちらの動画もぜひご覧ください。
「働く人の Well-Being 実現の “How” について前野先生に相談してみよう!の会」(2024年2月14日開催)