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人生を変えた高校留学

JAOS留学アワードで一次通過したエッセイです。

高校の帰り道、ほとんど陽が落ちた薄暗い橋。思うようにペダルが漕げず、私は自転車を止めた。目の前の柵を越えたら楽になれるだろうか。ぼんやりしたまま両手をかける。飛び越える力は残っていなかった。

ふっと、消えてしまいたい。ベッドに横たわって、天井のシミをじっと見つめる日々を過ごす。学校に行かず3か月過ぎたころ、留学の資料を受け取った。英語が全く話せないなんて関係なかった。申込用紙をぎゅっと握りしめる。人生を変えられるかもしれない。乗り込んだ飛行機の窓からは、澄み切った青空が広がっていた。

「準備できたよー」5歳のホストシスターが私の部屋をノックする。家族揃って夕食の時間だ。夕食前のテーブルで神様にお祈りをする。私が神様にお祈りをするのは年に一度の初詣くらいだった。全員が目を閉じたのを見て、私も一緒に目を閉じる。親愛を伝えたいときにはハグをした。肌と肌を通わせるコミュニケーションは気持ちを伝えやすかった。

留学生向けの英語の授業中には、世界中に友達ができた。母国語が英語ではない同士、気楽に話しやすかったから。放課後の体育館で、背の高い現地の生徒に混ざり部活動に励む。チームで一番身長が小さかった私。スピードで勝負すれば、私でも戦える余地があった。

新しい価値観が染み渡っていく。まるで乾いたスポンジが水を吸収するように。毎分、毎秒、新しい自分自身に生まれ変わっていくようだった。小さな成功体験が積み重なった結果だ。微塵もなかった自己肯定感が溢れ出し、自分への信頼に変わり始めたのは。

青々と草木が生い茂る夏真っ盛り、社会人 3 年目になった私は転職活動を始めた。英語を使って仕事をしたかったからだ。

「あなた自身、どんな性格だと思いますか」と向かい側に座る海外出身の面接官が質問する。「楽観的な性格だと思います。人生なるようになると思えるのは、留学経験からです」突然の英語面接で手に汗を握ったが、すんなりと質問に答えられた。留学をきっかけに積み重ねた語学力が実を結んだ瞬間だった。

面接の帰り道、陽が落ちかけて広がる鮮やかな夕焼け。ペダルを漕いで颯爽と風を切る。海外との取引がある会社だ。数ヶ月後の自分を想像してみる。胸の高鳴りは止まない。目の前には、橋。あのとき柵を越えなかった未来が今、ここにある。もう、大丈夫。橋の途中で立ち止まったりはしない。

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