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コピーを考えなさい。あなたがイキイキとしたあなたになるために。

大学で「コピーライティング」の授業をやっています。文教大学情報学科、非常勤講師です。情報学科は湘南・藤沢にキャンパスがあります。

その学びの場には、いろんな発見があります。ヒントになればと思い、今回はその話をしますね。

コピーライティングを授業にしている大学は珍しいそうです。定員40名(3年/4年生)で、人気の授業です。抽選で落ちて1年待ちました! 履修できて良かったです!と言う学生も少なくありません。もう4年やっています。若い学生は感受性のアンテナがピッと立っていて、変な思い込みに汚されていず、伸びしろが豊かです。全15回。毎回90分。僕もいつも楽しみながらやっています。

授業は、講義・演習・講義・演習・・・の繰り返しです。90分の授業をまるまる使って、課題を学生たちにやってもらうこともあります。

課題は、毎年、7、8個出します。それぞれの年でいろいろありますが、例えば、

「湘南の良さをアピールするキャッチフレーズ」

「若者が手紙を書きたくなるキャッチフレーズ」

授業に僕がお菓子を持ち込んで、みんなに食べてもらい、その美味しさをキャッチフレーズにする、などの体験型課題(?)もあります。グループワークももちろんあります。黒板にみんながキャッチフレーズを1本づつ書き、みんなで人気投票をすることもあります。かなり盛り上がります。

毎回の課題は、個人に丁寧にフィードバックします。実はこのフィードバックの質がとても重要で、ここが的確さを欠くと学生は伸びません。じぶんごと化を促されないので、「単位を取るためになんとなくやっている」モードから抜け脱せません。技術的なアドバイスだけでなく、マインド的なアドバイスも含め、頭だけでなく心にも届くようにします。

課題をやる時は、スマホ/PC検索OK、隣の人たちとのおしゃべりOKです。なぜなら、決まっている枠に決まった答えを出す試験ではないからです。発想を生み出すには自由さが必要だからです。

こうして、課題の繰り返し、フィードバックの繰り返しで、学生は徐々に力をつけていきます。

学生ですから、コピーライティングを本格的に勉強してきた子はいません。ゼロスタートです。ここが認識すべき特殊性です世の中のコピーライティング講座とは出発点が違うわけです。全員コピーを初めて書きます。コピーライティングを職業にしようと固く決意している子も皆無です。

その代わり、驚くべきことが起こっていきます。真っ白な学生たちの、内なるキャンバスに、じぶんの知力と感性で、どんどんとコピーという絵を書き始めるのです。何もないところに書くのですから、自然にその筆使いは伸びやかになります。急速に伸びていく子がちらほらと現れ、発表の作業を通して、全員のレベルが押し上げられていきます。

実は、上がって行くのはコピーを書く能力ではありません。もちろん、それもあります。では、どんな能力が上がっていくのか。

それは、二つの能力です。

①は、対象物の本質を発見する能力です。
手紙って、どういうものなのだろう。人に何をもたらすんだろう。なぜ、今、書かなくなったんだろう。様々なWHYを考え、答えを出そうとします。WHYはコピーライティングの入り口で、その先には、何が本当のことなのか、を見つける大きな仕事が待っています。学生たちは、いつの間にか「本当のもの」を手を伸ばしてつかもうとします。そして能力が動き始めます。

②は、じぶん自身を発見する能力です。深く考えると選択肢が見えてきて迷います。いいキャッチを書きたいと願うほど、じぶんの足りなさに気がつきます。じぶんの内側に必然的に視線が向き、凝視するようになります。無自覚な場合もありますが、これは決まって「書く」時に起きる現象です。

やがて驚異的に上手になる学生が出現します。春授業が始まった時、どうしようもないほど下手だった学生が、急激にイキイキとした言葉を創るようになります。毎年、そんな若い天才たちに驚かされます。明るい光を感じます。

コピーライティングの学びの機会は、コピーライターになりたい人のためのスキルアップだけでなく、人間に欠かせない(特にこれからの社会を生きていくために)①と②の能力を発掘し、醸成していくことにもなるのです。そのことを学生たちとのリアルな場でひしひしと感じるのです。

最後に。

夏頃の授業で出す課題「若者が手紙を書くためのキャッチフレーズ」。名キャッチのほんのほんの一部をご紹介します。


あなたの文字は、あなたの匂いがする。


本当の気持ちは、手間をかけよう。


消した跡まで、読んでほしい。


手紙をそっと胸に当てると、温かい気がした。


その悪口、手紙で書けますか?


既読とか未読とか、めんどくせー。


時間を旅して、言葉が届く。


時代を反映したコピーも数多くあり、言葉がイキイキと今を呼吸して、キラキラしている感じがします。あなたはどのコピーに魅かれましたか。

人間には伝えたい思いがいつも泉のように湧き出ていますが、なかなか勢いよく流れ出していけないのかもしれません。SNSがこれだけ日常に浸透していても、です。

それを誰かが、何かが、開けてくれるのを待っている。そんな気がいつもして、僕の授業がそのきっかけになってくれればいいと願いながら教室に通い続けています。

今年も桜が咲く頃、また新しい生徒たちと言葉の旅を始めます。


(おわり)

*写真は、海の近くのレストランにあったポスター。サーファーのためのもの。「人生の波をつかまえよう」。






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