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なりたい自分になれる。「十年発起」のススメ。

こんな時代だから、自分の未来を考えますよね。今の自分でいいのかなという不安がジンワリと滲んできたりもします、胸のうちに。あなたはどうですか。

でも、なりたい自分になれる自信もなくて・・・。そもそも、なりたい自分って何だろうと考えたりもするし・・・努力をしても、その努力に値する未来がくるのか、何の保証もないし・・・。

僕が日頃、大学で教えていると、そんな心の奥のモヤモヤを打ち明けてくれる学生がいます。キャンパスの広場や、駅前の喫茶店や、夜の居酒屋で、僕がそのモヤモヤにこう答えます。答えというより、質問です。

「夏目漱石は、何年、小説を書いていたか知ってる?」

学生は、いきなり夏目漱石が飛び出してきたから、びっくりします。僕の授業は「コピーライティング」という科目なので、まぁ、夏目漱石が出てきてもおかしくはないかもと、心の底では少しだけ思いながら。

「わかりません。けど、小説家で一番有名だし、教科書にものってるし、名作もいっぱいあるし・・・。三十年間くらい書いていたでしょうか」

僕はそこで、キャンパスの広場なら咳払いをし、駅前の喫茶店ならコーヒーをすすり、居酒屋ならビールを一口飲みます。えへん。

「たった十年なんだよ」

大抵の学生は、驚きます。いつも無関心を装って生きている大学生も、実はいろんなことに興味があって、いろんなことを知りたいのです。


「そうですか、たった十年・・・ですか」

「君は、今、いくつ。20歳かな」

「・・・・そうです」

「単純に、君が明日から小説を書き始めればだよ、30歳の頃には、夏目漱石になっているわけだ」

学生の目は少し輝き始めます。自分もできるかもしれない・・・・そうかぁ・・・・十年、何かに打ち込めば、できるかもしれない! そう考え始めます。

漱石の初めての小説は、「吾輩は猫である」。明治二十八年、漱石が38歳の時でした。今で言うと、遅いデビューだったかもしれませんね。ロンドン留学時に神経衰弱になるなど平坦な人生ではありませんでした。才能はありましたが、決して運に恵まれた人ではありませんでした。

そして。

大正五年。49歳で永眠します。最後の小説は、「明暗」(未完)でした。

短い生涯でしたし、小説家としても、たった11年足らずのキャリアでした。その11年で、漱石は、日本の文学史上最高の作家と評されています。星のように高く輝き、人々を今も照らし、導き続けています。

「坊ちゃん」「虞美人草」「草枕」「三四郎」「門」「それから」「彼岸過迄」「こころ」「夢十夜」・・・

僕は、この事実を知った時、勇気が出ました。ああ、十年頑張れば、努力すれば、何か「しっかりした手応えがあるもの」を手に入れることができるんだな、と。もちろん、漱石ほどの天分の才はあるはずもないのですが、自分の力の限りは尽くしてみようと決心することができたのです。

十年だったら、万が一、うまく行かなくても、やり直すことができます。今の時代ですから、転職もできるし、啓発セミナーも受けられるし、コミュニティで活動もできる。時計の針を巻き戻し、また新たな明日にトライすることもできます。

十年発起。

もちろん、僕の造語ですが、学生たちは、スマホにメモしてくれたりします。あなたはどうでしょうか。


(終わり)

*写真は、鎌倉・由比ヶ浜



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