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【読書】コトラーのH2Hマーケティング 「人間中心マーケティング」の理論と実践

「マーケティングって、結局は人を騙して(言いくるめて)金儲けすることでしょ?」

 私自身、これを(知り合いほどでもない人に)言われて正直驚きました…。同時に
「いや、お前にマーケティングの何がわかるねん!」
 と、怒りに近い感情が湧き出ました。


マーケターは「悪意のない悪行」という罠に陥りやすい?!

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 けど、TwitterやそのほかSNSを開いてみると、そう思われてもしょうがない投稿が目立つことに気づかされるのです。

・マーケティング勉強したら人生イージーモード!
・1日で○万円稼げるぞ!
・金儲けしたければマーケティングを学べ!
・マーケティングで稼ぐ「ずるい」方法を伝授!詳しくはプロフへ!
※見たくもない動画広告を30秒も見せられるのも苦痛です。

 果たしてこんな投稿を見せられながら
 「いえ、私はあなたを騙そうなんてこれっぽっちも思っていません」
 「怪しいものではありません」
と言ってくる人を信じられますか?

 今回レビューする「コトラーのH2Hマーケティング 「人間中心マーケティング」の理論と実践」では、そのような利益至上主義によって汚染されてきたマーケティングに対して警笛を鳴らしています。

 利益至上主義のマーケターの行き過ぎた非倫理的な行動により、従業員や顧客が持つマーケティングのイメージは近年悪化の一途を辿っている。大半の人は「マーケティング」と聞くと、「噓」「欺瞞」「ごまかし」「迷惑」「操作的」といったネガティブな言葉を連想するようになり、市場調査結果の捏造等の不祥事が明るみに出たことで、そのイメージはさらに悪化した。
(本文より引用)

 このような非倫理的なマーケティングを採用しているマーケターたちは、自分たちのことを真っ当なビジネスをしていると思い込んでいるのも事実です。マーケターは相手が人格(喜び泣いて人を思う)を持った人間だということを忘れてしまう…。

 著者はこのような非倫理的なマーケティングに対して本書内で「悪意のない悪行」と指摘しています。


情報の加速が非倫理的なビジネスを明るみにしていく

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 と、同時にインターネット、特にSNSによる情報取得の加速によって、このような非倫理的なビジネスモデルはどんどん明るみに出て、いずれ淘汰されていく可能性にも触れています。

 実際に、近年ではわかりやすい現象が起きています。
 例えば、週刊誌がある芸能人のゴシップを掲載した際、早ければその日のうちに対象の芸能人が虚偽の情報だとSNSやブログで伝えるケースが増えてきました。

 かつては虚偽の報道をされた芸能人は、その間違いを指摘するのに会見に臨むか、もしくは黙って泣き寝入りするという手段しかありませんでした。しかし、SNSの普及により報道の間違いを(本人がすぐ!)指摘できるようになりました。

 このようなことから、世間の情報に対する見方は大きく変化していくことになります。
つまり
「マスメディアは『嘘』をつく」
「世の情報はすぐに信用してはいけない」
「多くの比較対象から評価できる情報を選ぶ必要がある」
と考えるようになってくるのです。

 昨今のユーザーの情報に対する捉え方の変化は、今後のマーケティングに大きな影響を及ぼすことになります。

このような今後の時代の流れがわかるだけでも、この本を読む価値は大きいでしょう。

H2Hマーケティング

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 今後の時代の流れを汲んだ上で、「これから」のマーケティングとして求められるのは、消費者・顧客はもちろん、
 ・一緒に仕事をする従業員
 ・取引関係企業
 ・株主
を倫理的に裏切らない「人間中心のマーケティング」がH2Hマーケティング(ヒューマンtoヒューマン)です。

 重要なのは、マーケティング活動の対象が顧客だけではない点です。
 本書で紹介されているH2Hマーケティングでは、ビジネスに関わるすべての方向に対して倫理的に裏切らない(裏表がない=誠実)関係性を築き上げていくことを重視しています。

例)ビジネスに関わる周囲の影響関係

直接的な影響関係
・消費者
・顧客
・従業員

間接的な影響関係
・NGO
・政府
・各種メディア

実現要因的影響関係
・株主・投資家
・コミュニティ

 ビジネスに関わるすべての客を含む人・企業関係者、政府、メディアは、共により良い社会を目指すためのパートナーのような位置付けになるのです。

モノはサービスの一形態

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 個人的に「おお、確かに!」って思ったのは、サービス・ドミナント・ロジックという項目です。

「顧客はモノやサービスを買っているのではない。価値を創造するサービス・オファリングを買っているのだ。モノとサービスの伝統的な区別はとっくの昔に陳腐化している。サービスを再定義し、顧客の観点からそれらを見るだけの話ではない。活動はサービスを提供する手法であり、モノもサービスを提供する媒体なのだ。サービスに焦点をシフトすることは手法からのシフトであり、生産者の観点から、活用と顧客の観点へのシフトを意味するのだ」

 顧客は形ある「モノ」を購入していると思っている人はどれだけ多いだろうか?と私自身、ライターをしながらも痛感しています。

 私なりの例えとして、「ファッション」を例に考えてみました。

 多くの人は客は「」というモノを購入していると思い込んでいます。

 しかし、実際には服をしばらく眺めて、鏡のある試着室で実際に着てみるなど、購入の判断に多くの時間を費やすのです。彼・彼女たちは「何に」時間をかけているのでしょうか?

 客は試着して鏡に映し出された自分を見て、

 「これを着て街を歩いたらどうなるだろう?」
 「友達に変だと思われないだろうか?」
 「好きな人は喜んでくれるだろうか?」

と考えているのです。つまり未来の成功体験・成功イメージを思い浮かべながら、購入判断をしているのです。

人は「物」を買っているのではなく、「物語」を買っている

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 もしも販売員が、客は服という『物』を買っている、と考えているなら、
「服のサイズはSML揃っています」
「素材は綿です」
「今年の流行アイテムです」
と、その服の特徴についてばかり触れるに違いありません。ディスプレイも服のサイズと名称程度で終わらせてしまうでしょう。

 しかし、人は物ではなく物語(成功イメージ・成功ストーリー・成功体験)を買っていると理解していればどうでしょうか?

「ビジネスシーンでも着やすいので、例えば会合で人と会う時には清潔感ある見た目を演出できます」
「Aラインのワンピースでゆったりしているので、大人の余裕が見せられます」

と、生活の中のシーンについて触れながら提案する意識を持つようになるかもしれません。ポップやディスプレイにも、購入後の未来がイメージしやすい情報を掲載することでしょう。

H2Hマーケティングは「一緒に物語を創る」

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 H2Hマーケティングはさらにその先を行きます。

 これまでは、
・価値を生み出すのは企業
 ・その価値を享受するのが客
という関係性でした。つまり「客が物語を買う」状態です。

 しかし、H2Hマーケティングでは、顧客が価値を生み出すこともあるのです。つまり物語を買う客ではなく、お客さんと一緒に物語を創っていくビジネスモデル・マーケティングが可能になります。

 これを本書では「サービスの共創的交換」と呼んでいます。

例)Amazonレビュー
 Amazonは商品の購入者が、その商品の使用感や価格に対する評価をするレビューをすることができる。一方的に販売するのではなく、客からのフィードバックをコンテンツにしている点は共創的交換である。
※ちなみに、本書ではAmazonの欠点にもさらっと触れられている。

 このような共創的交換は、顧客は顧客でありながら、同時に販売員にもなり得るということです。マーケターはそのような顧客との関係を深めて、さらにビジネスを広げることもできるでしょう。


ファッションに興味がない友人Aがブランド服を着る理由

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 先ほどファッションの話をしたので、それに関連して私の友人Aの話をします。

 私の友人Aは、ファッションにそれほど興味を示しません。同じスウェットを10年以上持ち続けており、現在も記録更新中です(だぼだぼ具合がとどまるところを知りません)。

 しかし、そんな彼が一つだけお金を注ぎ込むファッションブランドがありました。時には数十万円の服でも購入するのです。

私「え?ファッション興味ないんじゃないの?」
A「興味ないよ」
私「なんでそのブランド買うの?」
A「この服をデザインしている人の考え方が好きだから」

 友人Aがファッションに興味がないのは事実です。しかし、そんな彼がブランド服を着るのはそのブランドの背景に流れるストーリー・考えに共感しているからだったのです。
彼にとっては服を着ているのではなく、
 ・思想を身に纏っている
 ・思想を着ている
という感覚なのでしょう。

 これも「ストーリを共有する」という意味では、H2Hの一形態ではないかと思っています。

マーケティングの深化

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 新型コロナウイルスの流行により、デジタルの波が急激に加速しました。

 本書の表現を借りるなら「今までデジタル・インターネットに対して距離を置いていた人たちでさえ、デジタルを活用せざるを得ない状況」になって「一度使い方がわかったら、その後もデジタルと共存する生活」を続けるようになります。

 しかし、デジタルが発展しても顧客や取引の相手は人間だということは忘れてはならないし、むしろデジタルの発展がより人間的な関係性を要求するきっかけになり得ることを本書では言われています。顧客は機械と話したいのではなく、血の通った人間と関わりたいのです。

 私個人の感想としては、デジタルの波によてマーケティングの手法は「進化」するけど、同時により人間的な本質を追求するマーケティングの「深化」が求められる時代を予見しているように感じました。

 数としての人間ではなく、喜び悩み考え体験する人格を備えた人間と共に作り上げていく、より本質的なものを追求するマーケティング。それがH2Hマーケティングの見据えているところなのだと思います。

 難しい本で私も理解できているわけではありませんが、次世代のマーケティングに関わる人たちはぜひ手に取って読んでもらいたい一冊です。


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