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埼玉西武ライオンズの本拠地が不便な場所にある理由

 2023年4月18日(火)に埼玉西武ライオンズは東京ドームで主催試合を開催、41568名を動員して、5年振りの東京ドーム開催は大成功を収めることができました。一方で4月19日(水)にベルーナドームで開催した試合の観客動員数は12025名、4月11日(火)・12日(水)の試合は9201名・9009名と平日の観客動員に苦戦しています。4月13日(木)に収容人数が20500名の大宮公園野球場で開催した試合では17552名を動員することができたため、平日にベルーナドームで開催する試合の集客が課題になっています。この大きな要因として、アクセスの不便さがあります。

 ベルーナドームの最寄駅である西武球場前駅は西武鉄道の狭山線と山口線(レオライナー)の終着駅です。西武鉄道の駅で1日の乗降人員が最も多いのは池袋線の池袋駅(2021年度のデータ)ですが、池袋駅から西武球場前駅へ行くには、西所沢駅で狭山線に乗り換えなければいけません。池袋から急行を使用して西所沢駅へ向かっても、池袋から西武球場前まで50分は掛かります。西武沿線であっても、東京23区内から仕事終わりにベルーナドームへ野球観戦に行くのはかなりのエネルギーを要します。

 では車でのアクセスはどうなのか。車でのアクセスは鉄道以上に不便です。ベルーナドームの周辺道路は一本道のため、試合終了後は大通りに出るだけで1時間以上掛かることが日常茶飯事ですし、そもそもベルーナドームで試合がなくても、近隣道路では頻繁に渋滞が発生します。なぜ、こんな不便なところに埼玉西武ライオンズの本拠地があるのか、そもそも西武とはどのような企業なのかも含めて解説します。

①西武ライオンズ球場が誕生した背景

 2023年現在、埼玉西武ライオンズを統括しているのは西武グループ各企業の持株会社である西武ホールディングスで、西武ホールディングスが設立されたのは2006年です。ライオンズの親会社は長きに渡り、国土計画(後のコクド)が務めていました。西武鉄道やプリンスホテルが長年、ライオンズの親会社だったと思っている人もいるかもしれません。西武グループにおけるコクドはどのような存在だったのでしょうか。

 まず、かつての西武グループはコクド・西武鉄道・プリンスホテルなどの土地開発・鉄道事業を中心とするグループと、西武百貨店やファミリーマート、無印良品などの流通事業を中心とする2つのグループに分かれていました。コクドの主な事業はリゾート地などの開発です。何もない山奥などにリゾート地となる場所を作り、そこに鉄道を敷いたり、ホテルを建設して人の流れを作るのがコクドの仕事でした。そのため、西武鉄道やプリンスホテルはコクドの一部という表現が私は正しいと思っています。コクドが開発した事例として、軽井沢や箱根などの観光地、苗場や富良野のスキー場などがあります。これで何となくイメージができると思いますが、ライオンズもコクドの開発事業の1つでした。所沢の僻地にあった小さな野球場を大規模改修、福岡を本拠地としていたクラウンライターライオンズを買収、福岡から所沢へ球団を移転させて、大規模改修をした西武ライオンズ球場を本拠地とする西武ライオンズが誕生しました(チーム名に埼玉が入るようになったのは2008年からです)。これが埼玉西武ライオンズの本拠地が不便な場所にある背景です。

②ライオンズの本拠地移転の可能性について

 現在でも野球ファンや一部のメディアでライオンズの本拠地移転に関する話題が出ますが、ライオンズがベルーナドーム(かつての西武ライオンズ球場)から移転をする可能性は少なくとも今後30年はないと思います。

 実は1度、具体的な案として、本拠地移転の話が出たことはあります。1995年に行われた第5回臨海副都心開発懇談会で当時ライオンズのオーナーだった堤義明氏から臨海ドーム構想についての話が出ました。臨海地区の場所はお台場だったそうですが、具体的な移転計画があったのです。しかし、移転話が出た大きな理由が所沢の天候の関係で西武ライオンズ球場で開催する試合の雨天中止が多かったためでした。当時、東京に本拠地を置く球団はジャイアンツ・スワローズ・ファイターズの3球団。この3球団の承認がなければ、都内へ移転することはできませんでした。結果的にお台場への移転は幻となり、西武ライオンズ球場をドーム化することで決着しました。私の知る限り、これ以降に具体的な移転の計画が出たことはありません。

 アクセスに関しては不便なベルーナドームですが、経営の観点からライオンズを見ると、コロナ禍の2020年・2021年を除いて、黒字経営を続けています。安定した黒字経営が続いている要因を③で解説します。

③どん底の状態からファンに愛される球団へ

 ライオンズは元々ファンサービスに力を入れているチームとはいえませんでした。ライオンズファンや観客動員数を増やす興行の役割は2007年まで西武鉄道が担っていました。そのため、ライオンズはチームの勝利への意識は高いものの、ファンサービスに関しては選手・フロントを含めて、人任せにしている状況でした。そんなライオンズにファンの心は確実に離れていきました。2004年に西武ドームで行われた日本シリーズは空席が目立ち、25年振りのBクラスに沈んだ2007年には観客動員数が12球団最下位になりました。

 当時は西武鉄道の総会屋利益供与事件、コクドの有価証券報告書の虚偽記載により、かつてライオンズのオーナーを務めていた堤義明氏が証券取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載とインサイダー取引)によって逮捕されるなど、西武グループ全体の信頼が落ちており、ライオンズも2007年はあらゆる面で地の底に落ちていました。実際、私も2004年〜2007年はライオンズに対する関心がなくなっていました。当時、ライオンズのスター選手だった松井稼頭央監督のMLB移籍も原因の1つだったと思いますが、それ以上にライオンズや西武グループに嫌気がさしていました。

 しかし、2008年からライオンズは興行面も自分たちで取り組む組織体制に変更。ファンサービスにも力を入れるようになり、2011年に黒字を出してからはコロナ禍の2020年と2021年を除いて、利益を出せるようになりました。主催試合の観客動員数もチーム成績が低迷した2014年に1度大きく下がりましたが、その年以外は2019年までほぼ右肩上がりを続けて、2019年は実数発表となった2005年以降で最高の1821519人を動員することができました。2007年が1093471名だったことを考えると、ライオンズは多くのファンに愛されるチームへと生まれ変わることができたのです。

④ベルーナドームを本拠地にしているからこそ、ライオンズの価値がある

 ベルーナドームはアクセスの不便さや、ドームと謳いつつ、夏は猛烈な暑さと湿気、3月頭のオープン戦や10月終わりの日本シリーズの時期は凍えるような寒さを感じる環境のため、批判に晒させることがあります。しかし、私はベルーナドームを本拠地にしているからこそ、ライオンズは価値があり、黒字経営やファンに愛される球団に変わる要因になったと思っています。

 2023年現在、ベルーナドームもライオンズと同じく西武ホールディングスが統括をしていますが、2013年からは試合の興行だけでなく、ドームやその周辺エリアもライオンズが管理をするかたちを取っています。そのため、ライオンズは球場の使用料で経営が圧迫されることはないと思われます。もしも、ライオンズがベルーナドームを使用する際に使用料を支払っているとしても、それは西武グループの中でお金が動いているだけであり、西武グループとしてマイナスになることはありません。

 また、公共交通機関を使ってベルーナドームへ野球観戦へ行く場合、ほぼ全員が西武鉄道を利用するため、ライオンズがベルーナドームで試合をする際は野球の試合と鉄道の両方で西武グループの売上をアップさせることができます。ベルーナドームでライオンズが試合を開催する場合、10000名を動員できれば西武グループとして利益が出るそうです。大阪近鉄バファローズは大阪ドームを本拠地にしていましたが、球場使用料が多額だったこと、大阪ドームの最寄駅が地下鉄・JR・阪神電車の駅しかなく(大阪近鉄バファローズが存在した時代はまだ阪神電車の最寄駅はありませんでした)、近鉄沿線の球場ではなかったため、近鉄グループとしても利益が出にくい状況となり、それが球団の事実上の消滅の要因になったと思われます。

 そして、ベルーナドームは球場自体に大きな魅力があります。どの座席からでも観戦がしやすい環境、雨天中止の心配はないが屋外にいるような開放感、2017年のシーズンオフから2021年のシーズン前までの3年半の間には約180億円の費用を投じて、球場と周辺エリアの大規模改修を実施、球場の魅力はさらにアップしました。これに関しては改めて詳しく語りたいです。

 いろいろ言われるベルーナドームですが、私にとっては間違いなく、いちばん魅力ある球場です。他球団のファンの方もぜひベルーナドームへ足を運んでみてください。



◯出典
・埼玉西武ライオンズ 2023年4月21日
https://www.seibulions.jp/

・西武鉄道 駅別乗降人員 2023年4月21日
https://www.seiburailway.jp/company/passengerdata/

・西武ホールディングス 2023年4月21日
https://www.seibuholdings.co.jp/

・西武グループの歴史 2023年4月21日
https://www.seibuholdings.co.jp/group/history/

・本拠地の改修プロジェクトで西武ライオンズが挑むこと 2023年4月21日
https://xtech.nikkei.com/dm/atcl/feature/15/092100040/030500033/
https://xtech.nikkei.com/dm/atcl/feature/15/092100040/030500034/

・パシフィック・リーグ 年度別入場者数(1950〜2022) 2023年4月21日
https://npb.jp/statistics/attendance_yearly_pl.pdf

・株式会社西武ライオンズ 40周年事業の実施を発表 メットライフドームエリアの改修計画・周年イベント発表資料 2023年4月21日
https://www.seibulions.jp/cmn/items/40th/seibulions_40th.pdf

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