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優しい鯛塩そば

緊張した面持ちの新入社員を目にする日々が続く今日この頃。
「元気をもらったあの食事」と聞いて、自分自身が新入社員だった2年前に食べたあの味を思い出した。
そこで、noteであの味を振り返ってみようと思う。

社会不適合かもしれないと感じた5日間

2年前、今も勤めている会社に入社した。
いわゆるメガベンチャーと言われる会社で、その成長性に惹かれ、当時の私は入社を決めたのであった。

私の会社では、入社して5日間、新入社員全員が20名くらいの班に分かれて研修を受ける。
ベンチャー気質のある会社の同期は、やる気・元気に満ち溢れていた。
チームごとのワーク活動が多い研修でみんなが躍起になり、ランチも必ず一緒に食べ、研修が終わったら飲みに行く。
一般的だとも思うが、とにかくこれから一緒に会社を盛り上げていこう!仲よくしよう!という一体感が強かった。

そんな素晴らしい心意気についていけず、社会不適合を感じたのが私だ。

元々誰とでも仲良くできるタイプではなかった。
会ってまもない人達と四六時中時間を共にし、自分が縛り付けられているような感覚になった。
周りとの温度感・違いを痛感しながらも、まだ入社したばかり、上手くやらなければという気持ちで一生懸命周りに合わせていた。

大勢の中にいる孤独を感じながら、たった5日で限界が来た私は、研修最終日の昼休みに、1人研修会場を抜け出したのだった。

抜け出した先には

とりあえず会場を出て、マップで近くのご飯屋さんを検索し、目星をつけて歩き始めた。

ちなみに、自分から周りに話しかけることも苦手な私は、お昼休みになった瞬間、誰にも何も言わず研修会場を出た。

そのためか、歩いている途中に気を利かせた同期から連絡が来ていた。
「ここでみんなでご飯食べているからおいで」というありがたい連絡だ。

ただ、申し訳ないが、当時の私にはそれさえも苦痛だったのだ。

「一人でご飯を食べる」何も悪いことはしていないが、少しばかり罪悪感を抱いてしまい、目星を付けたお店までの足取りは重かった。

そして、思い出のあの味にたどり着くのである。

優しさに涙した10分間

私が行きついた先は、【鯛塩そば灯花】というお店だ。

最もスタンダードな【鯛塩そば】の食券を購入し、カウンター席で料理が出てくるのを待っていた。

5分と待たずにそれは出てきた。

出された瞬間、その美しさにまず感動したのを覚えている。


鯛塩そば灯花の鯛塩そば

黄金色に輝くスープに可愛らしい花のかまぼこ。温もりと爽やかなゆずの香りが広がっていた。

2枚ほど写真を撮影しいざ食してみると、心まで包まれたような優しい味わいに思わず涙がこぼれた。

肩肘張って頑張って周りに合わせていた私を勇気づけるような一杯だった。

たった10分で完食してしまったが、私にとってはとても大切な10分だった。

不思議と気持ちは晴れやかになり、研修会場に戻る足取りは軽くなっていた。

自分を守る食事

私は、会社や同期のことが嫌いなわけではない。
ただ、周りにすぐに馴染むことが苦手で、有り余る元気やエネルギーを持ち合わせていないだけだ。

この鯛塩そばを食べて以来、私は無理に周りに合わせるのを止めた。

5日間の研修後は各配属先での研修になるのだが、その時も同期は一緒にご飯を食べていた。
私は時々一緒に食べたり、時々ふらっと一人で外に出たりしたが、5日間で感じた苦痛を感じることはなかった。

周囲からは少しばかり気難しい存在に思われていたかもしれないが(笑)、特に咎められたりいじめられたりもしない。

実際に働いてみて分かったが、同期と一生懸命仲よくする必要なんてない。
仕事は仕事だ。

もちろんこのnoteで「孤食」を薦めたいわけではない。
気の知れた人たちと食べるご飯は私も大好きだし、食事で縮められる人間関係もあると思う。

ただ、食事は他人との距離を詰めるだけのものではない。

だから、もし、新生活が始まった人の中で、私のような気の詰まる思いをしている人がいたら、怖がらずに適度に距離を置いてもいいと思う。
その時に気持ちを楽にしてくれた何かを大切にしてほしい。

私にとってのそれは、鯛塩そばだった。


#元気をもらったあの食事

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