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#タロット
【タロット小説】10番「天国への扉」
私は、大きな黒い扉の前に立っていた。辺りはなんだかもやがかっていて白く、私以外には誰もいない。
なんでここにいるのか、どうやってここに来たのかは分からない。ただ、自分はもう死んでしまったのだということだけは、なんとなく知っていた。この扉を開けたら、もう戻れないことも。
少し不安ではあるが、でもここに残ることはできない。
諦めに近い気持ちで、私は立っていた。
「この扉の向こうに行きたいので
【タロット小説】 3番「愛しき日々」
家事がひと段落し、ミカは新築のリビングでお茶をすすっていた。
彼女は少し膨らんだ腹部をさすりながら、もうすぐ生まれてくるであろう我が子に向かって語りかけた。
「今日はいい天気だねぇ。」
窓の外からは、温かい日差しが降り注いでいる。
腹の中からは特に返事はない。
しかし彼女は、毎日、まだ顔も知らない我が子に向かって語りかけていた。
そんな時間が、彼女にとっては幸せなひとときだった。
「あ、そう
【タロット小説】 2番「未来を見る者」
人里離れた山奥。
鳥のさえずりと、風がさわさわと葉を揺らす音しか聞こえない静寂の中に、その小さな社はあった。
白い服に身を包んだ、腰まである長い黒髪の少女は、榊とくだものを供えた。
彼女の名前はマヤ。
この社の守り人として、付き人であるルカと2人で暮らしている。
彼女の仕事は、この社の守り人以外にももう1つある。それはー。
「こんにちはー。」
女性の声が聞こえた。
ルカが扉を開けると、そこに
【タロット小説】1番「恋の魔術師」
僕は、自分で言うのもアレだが、ごく平凡なサラリーマンだと思う。
大学を卒業して今の会社に就職してから、平日は仕事に明け暮れ、土日は趣味の釣りに出かける、と言う毎日を送っている。夏はサーフィンを楽しみ、冬はスノーボードをしたりもする。
たまに学生時代の友達と飲みに行くこともあるが、この会社に就職して4年、友達はだんだん彼女ができたり、家庭を持ったりして、会う機会も減ってきた。
僕も、そろそろ彼女が欲
【タロット小説】0番「無鉄砲な男」
ヨハンとマトの2人は、小さな町に辿り着いた。
ここは、小さいながらも活気がある市場が中心部にあり、たくさんの人が行き交っている。
威勢のいい掛け声、どこからともなく漂う美味しそうな匂い、色とりどりの装飾品が並ぶ店ー。
マトは見慣れない景色に、キョロキョロしていた。
「あっ、あのパン美味しそうだな。
ヨハン、昼ごはん食べない?」
マトが振り返る。
しかし、隣にいると思っていたヨハンの姿は、そこには無