夏へのトンネル、さよならの出口

ガガガ文庫の好きなところは、ライトノベルでありながら硬派な作品も多く扱っていることだ。
以前取り上げたものでいうと、「とある飛空士への追憶」がある。
他にも「わたしはあなたの涙になりたい」は近年「このライトノベルがすごい!」で賞を取っていたと思うが、これもガガガ文庫である。
余談だが、「わたしはあなたの涙になりたい」の著者・四季大雅先生は僕と同じ出身地である。
ちょっと誇らしいのだが、まだ積本なのはナイショだ。

さて閑話休題としても、この「夏へのトンネル、さよならの出口」(以下、「夏へのトンネル」)は映画で履修した。
出版社の話をしておきながらサーセン。
この手の青春ロマファンはワンテーマであることが多いので、映画の原作にはとても相性が良い。
「夏へのトンネル」は作品としては時差によるすれ違いで、性質こそ異なるものの、そのカタルシスは「ほしのこえ」や「トップをねらえ!」に近い。
しかし、あまり恋愛要素が強く押し出されている訳ではなく、死んだ妹の影に囚われる主人公に現実を斜に見ながらも葛藤するヒロインと、どちらかというとティーンエイジャーの不安定さが芯にある。
だからこそ、時差によるすれ違いという手垢のついたテーマながらも他の作品としっかり区別化できているのだと思う。

劇中で時差を生み出す舞台装置の役割を果たす「ウラシマトンネル」の設定も良い。
劇中ではファンタジー作品にありがちな液体状の膜のようなものが描写されていて、そこはなんか面白みがないなと思ったものの、その時差の性質を2人で調べるところから始まるというのがなかなか面白い。
それでいて所謂「単純接触効果」をしっかり引き立たせる構図にもなり、最近のコンテンツにありがちな「何でこの人は主人公に惹かれてるんだ……?」みたいに読み手側がならないのが良い。
尤も、硬派な作品でそれに陥るような甘いプロットは滅多にないが。

アニメ映画というと人気のTVアニメの劇場版か、ジブリのような名だたるスタジオ(もしく監督)による作品ばかりがフィーチャーされがちで、あの新海誠監督ですらそれに分類されるようになってしまったワケだが、こういったTVアニメにするには尺も無ければエンタメ性も低く映画ファンにも向けられてはいない、しかし鑑賞の余韻に満足感のある作品というものは決して少なくない。
地元ではこういうのをなかなか上映してくれないのだが、仕方無さはあるけどそれが少しもどかしい。

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