日本沈没

僕の世代で「日本沈没」といえば多分2006年版の映画が一番印象にあって、映画を観たかどうかに関わらずテレビCMがめちゃめちゃ流れていた印象がある。
しかしこの作品、原作は1970年代まで遡り、上記の2006年版より前にも映画化をされていて、マンガも出ているとのこと。
2006年版に話題を合わせるようにマンガ化も2回されていて、最近はWebアニメにもなっているらしい。
にも関わらず、僕がその殆どを未履修なのは年代のせいだけではなく、やはりどこか戦争や天災の悲劇を恐れているからかもしれない。
そういった作品を全く履修してこなかった訳では無いのだが、この記事を執筆している時点で「はだしのゲン」「火垂るの墓」「コッペリオン」「すずめの戸締まり」といった有名どころが未履修である。
戦時中を描いた作品で言うと「この世界の片隅に」ぐらいだろうか。
尚、「日本沈没」に関して履修しているのは二回目のマンガ化をしたものだ。

上にあるように羅列してみると、災害系はやはり地震にまつわるものが多く、日本という国の歴史が常に地震の歴史と隣合わせであったことを感じる。
この記事を書いている2024年も正月早々に石川県で大きな震災があったばかりだ。
その割には前々から延々と言われている首都直下地震だとか何とかは全然来ないし、来る可能性は低いだろうと言われていた我が故郷・福島は津波に原発にと世界的な注目を浴びる大災害となった。
地震という災害に置いて、この国には安全な場所は何処にも無いなと思い、最近は水害だけ避けれれば後は仕方ないかと考えている。

「日本沈没」はそのメディアミックスの度に、プラットフォームに合わせて、もしくはその時の時代背景に合わせて、微妙に内容は異なっている。
大筋としては大体一緒で、登場人物や重要な固有名詞も被るものは多いが、しかしそれを以てしても別物といった印象は強い。
共通しているのは尋常じゃないぐらいしっかりと資料からエビデンスを持ってきているんだろうなという地質学や海洋学の専門性で、正直どこからがフィクションなのか分からず、故にその緊張感と天災の恐ろしさに背筋が伸びる。

災害とは別の恐ろしさも描かれている。
2度目のマンガ版の中盤あたりで東京が震災に見舞われるのだが、秩序が崩壊した中で正義執行もエスカレートしていく。
集団になることで過剰な行動が可能になってしまう一般人の姿に「デビルマン」で見たなぁと思いながらも、そういうシーンで生贄になる被害者は大抵は有事でも理性を保って思いやりのある行動ができる善人で、待っている人を残してきた中で……ということが多く、大変居た堪れない気持ちになる。
と同時に、福島の震災をこの身で経験したとはいえここまで極限の経験が無いにも関わらず、「これはあるラインを越えたら絶対に起こり得るな」と確信に近い何かを感じるときがある。
平時でも万引きや暴行沙汰のような犯罪は溢れているだろうし、実際に震災でひしゃげたコンビニからは万引きが横行していた。
僕が被災した時は配給されていた水や食料は十分にあったから整然と列を成していたが、この量が足りていなかったり、配給する側もされる側も大勢の犠牲者が出ているような状況だったら混乱は間違いないだろうし、癌通知をされて奇行に走る人がいたくらいなのだから、この世の終わりだと知れれば俗に言う「無敵の人」は大量発生すると思う。
僕自身も「無敵の人」になりかねないのでは、と自分で恐ろしくなる瞬間があるから、決して他人事とは思えないし、そういったあり得ないことを作り出す状況が本当の「有事」ということなんだと思う。

と、同時に、総理大臣が熊本城の天守閣に立てこもり、阿蘇噴火と日本の沈没を懸命に訴えたシーンで、誰もがその判断を周りに委ねて結果として誰も逃げない、という平和ボケも恐ろしい事実だという確信がある。
他責思考がどうとか、総理大臣の支持率がどうとか、そういったものではない。
これは多くの人がそういう周りから適当な判断ををしていると僕の目にも映るし、そうはあるまいと思っている僕でさえも、何だかんだ周りの意見や長いものに巻かれて自分で判断することを怠っているケースはごまんとある。
恥ずかしながら。
しかし、それが社会性を持つ生き物の性でもあるからこそ「この作品はただのフィクションではない」と感じさせる所以である。

記事は1000字前後を目安としながら長々と講釈を垂れてしまったが、僕の最も危険な点として、震災を経験してからは震度5弱くらいまでは何も感じなくなってしまったことである。
会社のMTG中に僕だけ平然とし過ぎていて気味悪がられたのを思い出す。
なんならニュース速報を見なくても震度を割と良い的中率で言い当てられるし、冷静な行動ができるとも取れる。
ただし、考えを放棄している訳では無くて、建物を見たら構造的にどこが強いかとかは最初に目がいくし、ローリングストックは必ず置いておくし、僕の背より高いところに物は置かず避難に備えた室内導線は確保している。
最初に述べた通り、こんなにも震災と隣合わせの国で何度も悲惨な光景をテレビで見ておきながら、それらの備えすらしていない人にはとてもガッカリする。
そういう人に限って震度3ぐらいでビビるのだから、日本が沈没するかもよ、ぐらいの危機意識を持って欲しいかもしれない。
まぁ、僕もいつでも国外退避できるような身分ではないのだが。

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