雨の日もかわいい

好きな人にかわいいと言ってもらえなくなった。「どうしてそんなにかわいいの?」と両手で頬を包まれ見つめられることを愛していたのに。
「〇〇のことが好きだから」と突出した唇で答える私は最もかわいかったはずなのに。

いろんな人にかわいいと言われることが好きだ。知らない人から向けられる好意が気持ち悪いという人がいるように、知らない人から向けられるかわいいが気持ち悪いと思う人もいるだろう。私は、知らない人から向けられるかわいいも大好きであり、好きな人から向けられるかわいいは愛しているのだ。大好きでかわいい友人から向けられるかわいいは大切にふかふかの毛布にくるめるて一緒に眠りにつきたいし、大好きでかわいい好きな人から向けられるかわいいはお気に入りのこぎみゅんのポーチに入れて持ち歩きたいのだ。

明日は好きな人とデートをする。天気予報を何回見ても雨予報だ。雨は嫌いだけど、可愛いヘアアレンジをして雨の日もかわいいねと言ってもらいたい。もうてるてる坊主を作るには遅いけれど、YouTubeでヘアアレンジを調べるには時間が十分ある。夜ふかしは乙女の敵だけど、ドキドキして眠れない夜は乙女の特権だと思う。明日は何を着よう、明日はどんなメイクをしよう、明日は何色のリップを塗ろう、そんなことを考えながら、普段は塗らないハンドクリームを塗ってみたり、ベッドにピローミストを吹きかけてみたり、特別な前日を作り出してしまう。

明日の気温は30度近くまで上がるし、天気は雨だし、きっと湿気が強いだろう。ペタペタとした彼の手で、パウダーをはたいたふわふわな私の頬を包み込んでほしい。傘は持って行くけど、相合傘をしたい。彼の肩が濡れていることに気づいて、キュンとしたい。雨は嫌いなのに。雨だとデートをキャンセルするような女の子だったのに。

好きな人だけではなく、みんなにかわいいと思われたいと願ってしまうところが傲慢なのだろう。他者からの評価でしか自分の価値を見出せない臆病者だから、必要以上にかわいいを欲して、高まった承認欲求が暴走してしまう。しかし、私はまだかわいいに強欲でいたい。晴れの日も曇りの日も雨の日も、好きな人に友人に知らない人にかわいいと思われたい。


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