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POOLのちょっとだけウンチク 第2回 Beastie Boys『Stand Together』 selected by H ZETT M(H ZETTRIO)

WOWOW MUSICがお送りする、音楽好きのためのコミュニティ"//POOL"
その企画・構成を担当する吉田雄生が、いつものあの曲の響きがちょっと変わる(かもしれない)
とっておきのウンチクを書き綴ります。

今回のアーティストはH ZETTRIOのH ZETT Mさん。H ZETT Mさんが持ってきてくれた“とっておきのアナログ”は、Beastie Boysの『Stand Together』。

意外だったが、ロックとHIOHOPが融合したこの曲はH ZETT Mさんのジャンルレスな音楽に通じることがあると考えると実に興味深い選曲だ。

改めてこの曲が収録されている2枚組のアルバム『Check Your Head』を聴きなおすといまでも断然かっこよくて、1992年という時代の活気やエネルギーを感じることができる。

HIPHOP界の変革

90年代前半は、グランジが若者の間で流行していた。1991年には、ニルヴァーナの『Never Mind』、パール・ジャムの『Ten』、サウンド・ガーデンの『Badmotorfinger』という名盤次々と発表されて、グランジの一大ブームとなった。

ダメージジーンズに、スニーカー、Tシャツ、ネルシャツという泥臭いスタイルが、金髪美女をはべらすようなバブルMVのアメリカンを古くてダサいものへと追いやった。

HIPHOP界もまた白人の3人組BeastieBoysの登場によって、大きな変革をもたらした。彼らを世に送り出したデフ・ジャムの代表であり、プロデュサーのリック・ルービンはこう評した。「BeastieBoysはHIPHOPを郊外へ持ち出した」と。

リック・ルービンといえば1980年代半ば、ニューヨーク大学に在学中に仲間とともにHIPHOPのレーベル、デフ・ジャムを立ち上げた人物。LLクールJやRunD.M.CをヒットさせてHIPHOPの一大旋風を巻き起こした。

エアロスミスの曲を大胆にHIPHOPアレンジしたRunD.M.Cの『WalkThisWay』は、ロックとHIPHOPを完全に融合させ大ヒットを記録した。黒人のラッパーのアディダスのウェアとキャップ、ゴールドの太いネックレスを身に着けるスタイルがその象徴だった。

Beastie Boysはむしろグランジに近い。このアルバムの制作時、彼らはリック・ルービンのプロデュースから離れ、自分たちの音楽に原点回帰した作品でもある。

リック・ルービンとジョニー・キャッシュ

そのころ、リック・ルービンは何をしていたか。彼は自ら作ったデフ・ジャムをあっさり手放し、LAで新たなレーベルを立ち上げる。91年にはレッド・ホット・チリ・ペッパーズをプロデュースしている。

ルービンはスタジオに入ってメンバーと一緒に音源を創るタイプのプロデュサーではない。メンバーの話をじっくり聞き、行くべき道を誘導し、いつの間にか成功させてしまう。アーティストの自分でも気が付いていない良さを引き出していくのだ。

僕がリック・ルービンに興味を持ったのは、ジョニー・キャッシュをプロデュースしたあたりからだ。HIPHOPやハードコア、ロックを得意とするルービンがなぜジョニー・キャッシュ?ジョニー・キャッシュといえば、カントリーロックのレジェンドだ。そのきっかけは場末のラスベガスホテルで晩年のキャッシュのショーを観たことだったという。

ルービンはジョニー・キャッシュの姿に愕然とした。おそらくキャッシュはリック・ルービンの子供のころのヒーローだった。彼をこんなことろで歌わせてはいけない。そう思ったルービンはキャッシュ本人に、あなたをプロデュースさせてほしいと直訴した。

ルービンが行なった最初のことは、キャッシュの自宅に行って話を聞くことだった。子供のころ好きだった曲、青春時代にはまった曲、想い出の曲、お気に入りの曲、、、話をしながらキャッシュはギターを取り出し、歌い始めた。

それを録音したのが『アメリカン・レコーディング』というアルバムである。まさにジョニー・キャッシュの原点の曲たちをギター一本で録音している。

このシリーズはジョニー・キャッシュが亡くなるまで7作品を発表した。結局、突き詰めれば音楽はジャンルを超えることを証明した。Beastie Boysからかなり話が飛んでしまったが、そんな作品の裏方=プロデュサーを知るのも音楽の楽しみ方の一つかもしれない。

(文・吉田雄生・WOWOW MUSIC//POOL企画・構成担当)

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