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POOLのちょっとだけウンチク  第13回 U2『New Year’sDay』

WOWOW MUSICがお送りする、音楽好きのためのコミュニティ"//POOL"
その企画・構成を担当する吉田雄生が、いつものあの曲の響きがちょっと変わる(かもしれない)
とっておきのウンチクを書き綴ります。

今回のPOOLは「新年に聴くべき音楽」をOKAMOTO’Sのオカモトレイジさんに選曲してもらった。レイジさんはスタジオに来てからも最後の最後まで悩みながらの選曲。とても興味深い曲が並んだ。そちらは是非、HPのプレイリストでチェックしてほしい。

U2の出世作『New Year’sDay』

さて、今回僕は「新年ソング」としてU2の『New Year’sDay』をとりあげようと思う。
この曲は1983年に発表されたU2の名盤『WAR』に収録されていてシングルカットされた。U2の出世作と言ってもいいだろう。

アダム・クレイトンの印象的なベース、ジ・エッジ独特のギターリフで始まるイントロには、新年が始まるという高揚感はない。どこか、不穏なリフであり、哀愁漂うボノのヴォーカルには甘さのかけらもない。

それもそのはず、この曲は当時のポーランドの政治的問題をテーマにしたものだからだ。当時、ポーランドは社会主義体制。経済が低迷し、人々は苦しい生活を強いられていた。そればかりか、政府による言論の弾圧に人々の不満は充満していた。

そんなとき現れたのが、独立自主管理労働組合いわゆる「連帯」のリーダー、レフ・ヴァウェンサ(日本の世界史ではワレサ委員長と習っていた)だった。彼は社会主義国で初めて反政府を掲げた自律的な組織を構築した。それを恐れたポーランド政府は戒厳令を敷き、ヴァウェンサたちの活動を抑え込もうとした。

その事実を知ったボノは、この曲を「連帯」への応援歌としたのだ。
こう書くとなんだか小難しい曲なんだと思うかもしれない。ところが、歌詞を読むとこうも感じる。単に意味ありげなラブソングじゃないか。何も変わらない新しい年を迎えて、「昼も夜もずっと君と一緒にいたい」という、いわば“個人的な”歌だ。

モノ創りは個人的なもの

アーティストが物を創り出すモチベーションは、常に“個人的”なものではないかと思う。個人の思い入れこそがよい物を創り出す。

『パラサイト 半地下の家族』でアカデミー賞監督賞を受賞したポン・ジュノはそのスピーチでこう語っていたのが印象的だった。「私は昔この言葉を胸に映画を学んでいました。その言葉とは“もっとも個人的なものこそが、クリエイティヴなことなのだ”。その言葉はここにいるマーティン・スコセッシのものですが・・・」。

このスピーチにはいたく共感した。そうだ、モノ創り個人的なものなんだ、と。
ポール・マッカトニーのコンサートで必ず、会場を含めて大合唱となる『Hey JUDE』はジョン・レノンの息子ジュリアンを慰めるために作ったものだ。ジュリアンはまさか自分の名前が世界中のあらゆるところで大合唱されるとは思いもよらなかったろう(笑)

ボノもまた個人的な衝動から『New Year’sDay』を書き始めた。新婚の愛妻アリに向けた情熱的なラブソングだったのだ。そこに社会問題を対比させたところにこの曲のすごさがある。

個人の問題と社会問題は決して別のものではないのだ。以前このエッセイで取り上げたジョン・レノン&ヨーコ・オノの『HAPPY Xmas War Is Over』もまさにその代表的な例だ。

日本で言えば、井上陽水の『傘がない』がそれにあたる。新聞の片隅には「自殺する若者が増えている」と書かれている。でも問題は今日の雨。君に会いに行かなくちゃならないのに、傘がない。と歌う。

U2がこのアルバムをリリースしたのは1983年、あれから40年近く経とうとしているのに、世の中は全く変わっていない。

それどころか、どんどん悪い方向に進んでいる。ポーランドで起こっていたような問題は、残念ながら、いま世界中のあらゆるところで勃発している。U2の『New Year’sDay』は、いまこそ聴くにふさわしい、そんなことを考えながら、過ごした新年だった。

(文・吉田雄生・WOWOW MUSIC//POOL企画・構成担当)

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