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Production Note| DJ Shadow MV制作の裏側 Vol.1

こんにちは。WOW PRチームの佐々木です。先日公開されたDJ Shadowの「Slingblade」のミュージックビデオの企画・制作・演出をWOWが担当しました。

本案件は、海外アーティストと直接ディスカッションを重ね、互いのクリエイションに敬意を払いながら進められたという、とても恵まれたプロジェクトとなりました。DJ Shadow本人が持つ曲の印象や思いを、WOWがどのように受け取り、解釈して、ビジュアライズしていったのか。ディレクターの北畠・プロデューサーの山本を迎え、制作の裏側を時にゆるっと、時にゴリッとインタビュー形式でお伝えします。全3回予定です。

Vol.1 記事概要
・オファーの経緯
・北畠Dirをアサインした理由
・夢のアーティストからのオファーでテンション爆上がり
・DJ Shadowからのオリエン内容
・楽曲確定後の進行
・楽曲の第一印象
・第一印象から全体世界観、ストーリーメイキングへのアプローチ
・OKとされる表現とNot OKの境界

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左:Director 北畠遼(きたばたけ りょう)
右:Producer 山本高(やまもと こう)

・・・

佐々木
MVの依頼が来た時の経緯を教えてください。

山本
もともとの経緯はWOWサンフランシスコのプロデューサーSacco(サッコ)からの紹介がきっかけで始まりました。昨年5月に、Saccoが知人を介してDJ Shadow本人に会い、WOWの紹介をしたところすごく興味を持ってくれて、そこから具体的な話につながりました。

佐々木
バタケ(北畠)さんをアサインした理由は何ですか?

山本
まずバタケさんとは実写とCGを融合させた面白い作品を作りたいよねっていう話をずっとしていた経緯がありました。それと、バタケさんが生み出すビジュアルはとにかくインパクトが強いのと、そのビジュアルをロジカルに構築していく才能に溢れているので、今回自由な座組みで思う存分やりたいことをぶちかませるのでは(笑)、と考えすぐに相談をしました。バタケさんのリールをDJ Shadowに見せたところ、すぐに「Very Cool。年末にニューアルバムが出るからコラボしよう」とプロジェクトが進んでいきました。

佐々木
今回のお話をいただいて、最初はどのような印象でしたか?

北畠
実は、Shadowをあまり知らなくて。山本さんはすごい熱狂的なファンなんですけど、僕とか最初は、温度感としてはちょっと低めだったかな、と。

佐々木
山ちゃん的には大好きなアーティストだったのね。

山本
そうなんですよ。90年代に出たファーストアルバムの時からずっと聴いてます。自分はずっとヒップホップを聞いてきたのですが、当時からDJ Shadowの存在は異質に光り輝いていました。今では当たり前に聞けるアブストラクト・ヒップホップというジャンルは当時は皆無だったので、どれだけDJ Shadowの影響が大きかったかが分かりますよね。シンプルに一ファンだったので、メールで「DJ Shadowの相談」とSaccoから入ってきたときに「おいおいマジかよ!?」って思いました。

一同
(笑)

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佐々木
DJ Shadowからのオリエン内容はどういったものだったのでしょう?

山本
初めは新しいアルバムを引っ提げた全米ツアーでのビジュアルの演出をお願いされました。その後すぐにツアーのビデオが送られてきて確認したのですが、ライブセットはだいたい2時間半くらいあって、ビジュアルアセットも多く散りばめられていまして。これをWOWで全部やるのは不可能だし、とはいえ10分、20分とかパートで担当する場合、具体的な作品として残せないので微妙だなと感じていました。また、ツアー関連だと現地のレーベルやクリエイティブ、テクニカルチームなどから様々な制約を受けることが想像できたので、やってもあまり力を発揮できないんじゃないかと。であれば、新曲の中から1曲、MVを作れたほうが価値があるのでは、と思い本人に提案をしてみたという感じです。

佐々木
初めのオリエン内容から結構大きな変更といった印象ですけど・・・特に問題もなく?

山本
MVをやりたいって言ったら、「あ、OK」と。「じゃあすぐにマスタリングして、候補曲を送るね」となりました。

佐々木
おお・・・決断とアクションが早いですね。

山本
すごく仕事が早くて翌日には曲が届きました。が、届いた「Firestorm」っていう曲は想像してたものとはだいぶ違ったんですよね。自然の驚異をテーマにした壮大なオーケストラトラックで、実景が合うイメージだったのでどうしようかすごく悩みました。ただ、せっかくのコラボなので妥協せずにちゃんと自分たちが力を発揮できるような曲でないと意味がないと言い聞かせて、本人に「別のトラックの候補はありませんか」と逆提案をしました。すごく失礼だし、気分を害してプロジェクトがなくなる可能性もあるだろうな、と意を決して話したのですが、ここもまた快く「OK」と言ってくれました。20年以上トップで活躍し続けてる人は心が広いというか、すでに悟りの境地にいるんだなと本気で思いました。こうして数日後に今回制作した「Slingblade」が届きました。

佐々木
MVへの変更をOKしてくれたことといいめちゃくちゃいい人ですね!

山本
本当にいい人ですよ。

北畠
めっちゃいい人。ビデオミーティングしたときもスゴイいい人でしたよね。

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<打ち合わせは終始和やかに進んだ>

佐々木
あこがれのアーティストがそんなにいい人で良かったねえ(笑)。

北畠
夢を壊されなくてよかった(笑)。

山本
下手したら最悪の思い出になってたかもしれないですからね(笑)。

佐々木
曲が確定したあとはどんな感じで進んで行ったんでしょうか?

山本
WOWのクリエイティビティに任せたいという感じで具体的なブリーフもなく、進めていくことになりました。ハッキリ言われたわけじゃないですけど、多分、WOWに自由に、バタケさんに自由に想像してほしいっていう思いがあったんじゃないかなと。DJ Shadowはトラックメーカーなので、ビジュアルを自身では作らない訳ですが、その分これまで名だたる有名なクリエイターや映画監督とコラボレーションしてビジュアルを展開しています。トラックとビジュアルが合わさることで視聴者に新たな体験を提供できる、と話していたのを鮮明に覚えています。それ故にトラックに付加価値を与えてくれるビジュアルアーティストに対するリスペクトを強く持っている人でした。だから今回もバタケさんのインスピレーションに任せて、自由に世界観を表現してほしいっていうのがあったんだと思います。

北畠
多分、彼のスタンスとして、まず初回は事前情報なしで「自由に考えてくださいね」と考えてもらって、上がってきたものに対して、自分の思い描いているものやインスピレーションとズレている時はそれを軌道修正して・・・という感じのスタイルだったような気がしますね。

山本
確かに、今回はバシッとはまったから良かったけど、はまらない時は恐ろしいですよね。

北畠
はまらないときは全然はまらないですよね(笑)。

山本
スケジュール的には、6月に「Slingblade」が送られてきてからバタケさんの方でR&Dを行い、7月にトリートメントを出しました。それから色々テストを重ねて9月にビジュアルサンプルを本人に提案しました。「詩的ですごくいい感じになりそうだね」と一発OKをもらい、ストーリーボードの着手に進んでいきました。

佐々木
曲が確定してから9月のトリートメント提案まで大分時間をかけていますけど、リサーチはどんなリサーチをしていたんですか?

北畠
何をやるかというのも全く決まってなかったので、前々からちょっと気になっていた、「こういうことできるかな?」と考えていたものを検証していました。今回使った方法の一つなんですけど、人物を撮って、それをCGのベースにするっていう。そういう方法がうまくいくのかいかないのか、というのをちょっと試してみたって感じですね。

佐々木
それって実際何かテスト撮影したりとか?

北畠
しました。都内某所にフォグルームなるものがあって、そちらにご協力いただいてテスト撮影をしました。GH5を持って行って、山本さんにフォグルームの中に入ってもらって、外から撮影して。照明とかも借りて。

山本
やりましたね。

北畠
どういう照明条件の時が良い感じに撮れるのかっていうのも、その時にある程度目星をつけて。で、そのデータを持ってきてCGの作業に入って、それも「何とかいけそうだね」っていう目処がついたんで、「じゃあ、これで提案してみましょう」っていう感じですね。

LookDevまとめ

北畠
最初はこういう方向性だったんです。どちらかというと、グラフィックに寄った感じのものだったんで、提案時は一応ルックスとしてこういうのを出してたんですけど、ストーリーテリングする上で、全部こういうグラフィカルな世界観でやるのがちょっと難しいっていうか。色々限定されてきちゃうんで、ストーリー的にもう少しリアル目に寄せる必要が出てきたこともあり、ビジュアルはプロセスの中で徐々に変わっていってる感じですね。でも、基本、ベースとしているやり方は同じですね。

佐々木
初めて「Slingblade」を聴いた時、どのような印象だったのか聞いてもいいですか。

北畠
広い絵がぱっと思い浮かぶよ
うな、何かそういう抜けのある曲だったというのと、ポジティブというよりか、どちらかというとちょっとネガティブを感じさせるというか・・・

山本
ですね。退廃的なというか。そんな印象のトラックだなと思いました。

北畠
基本的に抽象的なトラックでしたね。

山本
まさにDJ Shadowワールドですよね。

北畠
なので、やりようによって色々はまるんですけど・・・まあ基本的にはちょっとダークな線かなっていう感じでした。

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佐々木
どういう流れで最初の印象から全体の世界観とその先のストーリーメイキングを経て画に落とし込んでいったんですか?

北畠
今回は、 Shadowも僕らに頼んできてるということは、ちょっと面白いビジュアルを作ってくれそうだなっていう期待があるんだろうなとは思ってたんで、ストーリーよりも、まずビジュアルを先行して作っていました。最初のプロポジションとかも、ビジュアルで説得するというか。ビジュアルで、「おーいいね」と思ってもらえるような資料作りをしてたんで、基本的には、ビジュアルから逆算したストーリーを作っています。根っこにあるのはビジュアルで、そこから「このビジュアル」とか、「こういう撮影方法だったら、こういう制約があるよね」「だったら、じゃあ、セッティングはこういう感じの世界にしようか」「そういう世界だったら、何かこういうストーリーが合うよね」みたいな感じで、一番コアの部分のビジュアルを根にして、どんどん枝葉を広げていったような感じになります。

佐々木
ビジュアルからストーリーを作って、同時に撮影のフィージビリティを考えていったと。

北畠
そうです。それと、Shadowからのリクエストで、ビジュアルだけでなく、そこにストーリーを感じさせる作り方にしてねっていうオーダーがあったんですね。だから、ただただフレッシュなビジュアルのコンピレーションみたいな感じにしちゃだめだよみたいなことを最初に釘を刺されてたんです。なので、ある程度、そういうストーリー性のあるものを作る必要性があったんです。

佐々木
ここに来てはじめてShadowサイドからのリクエストですね。

北畠
そうですね。

山本
うん、そうですね。

北畠
多分、雰囲気とかストーリーラインとかも、ズレてたらすごい言ってきた感じはするんですよね。「自由に」とは言ってたんですが、彼の中での映像の方向性はあったみたいなので。

山本
Shadowがストーリーラインを作りたいっていう話の時、「エモーション」っていう言葉がよく出るんですよ。

北畠
そうですね、そうです。

山本
ストーリーラインを作ってエモーションを生み出したいっていうのにすごい重きを置いているんですね。それは先程話したトラックとビジュアルをシンクロさせる、ということにも繋がることなのなかと思っています。

北畠
そうですね。

山本
そういえば、あともう1個リクエストありましたよね。トリートメントを提案した時に、こちらのビジュアルにインスピレーションを受けて、昔のアメリカSF映画の『Altered States』っていうのを思い出したみたいで、「これすごい良いから観て」って。

北畠
そうだ、そうです、そうでした。

山本
かなり熱く語っていたので、バタケさんと一緒に観ましたが・・・。なかなかの映画でしたよね(笑)。

北畠
なかなかでした(笑)。

山本
天才科学者が人間の身体には魚類から両生類、爬虫類や鳥類を経た哺乳類への進化のプロセスが詰まっていると提唱し、それをさかのぼって生命の根源を探求する為、幻覚の研究を始めるという話なのですが、次第に身体がボロボロに壊れていくという・・・。結構ビジュアル的なインパクトが強い映画でした。なるほど、これのことを言ってたのかなっていうのを、2人で意識しながら観ましたね。

北畠
うんうん、そうですね(笑)。そういう断片的なところから、「これ好きそうだな」「あれ好きそうだな」みたいなのを想像していきましたよね。

佐々木
Slingblade」は結構な長尺ですけど、ビジュアルとストーリーの配分や構成はどのように考えていったんですか?

北畠
いわゆる起承転結な感じですよね。音の展開点とかがあるんで、その展開に合わせた構成を作るっていう・・・まあ、ごくごくシンプルな話なんですけど。今回、エモーショナルとかストーリーを感じさせたいというオーダーがあったんで、そういうのに忠実に、あんまり外さない方が良いかなっていうのがあったんで、展開するポイントではきちんと展開させて、展開したところも分かりやすくビジュアルが変化する、という構成にしてあげる必要がありました。あとは、1本の作品の中の、その世界の中でちゃんと根付いている表現にするというか、ただトリッキーなビジュアルを作るのではなく、その物語の中で見たときに、きちんとそれが世界観の中で語られているように見せるというのを、かなり意識して作っていましたね。

佐々木
そういうお話を聞くと、言ってることは「なるほどなるほど」って分かるんですけど、実際にそれをビジュアライズする時に、その世界観にどういったものだとマッチしてなくて、どういったのだと「あ、これならOK」ってなるんですか?

北畠
もう作りまくるしかないっすよね、とりあえず(笑)。

佐々木
おお・・・(笑)。

北畠
とりあえず色々作ってみて、「これが合ってない」「これが合ってる」って、並べてみた時に、何となく見えてきたりするとこがあるんで。全く手がかりなしで作ってる訳ではさすがにないですけど、やっぱりある程度作って並べるっていう作業をしないとなんです。ゴール地点が見えないものに関しては正解が見えないので、もう本当に作りまくるって感じですよね(笑)。ただ、尺も長いから表現のバリエーションとかも色々作ってたりするんですけど、それが別の世界のものに見えないようにする、その世界観の中で起きているコト・モノの現象に見せるっていうのは気を付けていましたね。

・・・

次回は、一風変わったルックとなった「Slingblade」の撮影現場、CG制作時の裏側にフォーカスしたお話になります。お楽しみに!

<Interviewing + Writing : PR / Michiru Sasaki>


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