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ずっと変わらないもの

就活をしてはっきり見えたのは、できることと、できないことの境目だった。

逆算思考ができない。マルチタスクも苦手。
一つのことに対して人の何倍も時間がかかる。
論理的に生きられない。嘘がつけなくて、熱意のなさをごまかせずに、最終面接で落ちた企業もいくつもある。記憶力がなくて話が覚えられない。人の顔も覚えられない。前に進みたいのに進めない。抽象的すぎること。0or100思考なこと。完璧主義者なところ。考えて分かることも、経験しないと納得できない。

改めて思う。私は、ビジネスの世界で生きることには、本当に向いていない。

それでも、就活を通して私にあると思ったのは、結局、ずっと前から変わっていないものだった。



とある会社の最終面接で、仕事も趣味も何もかも全て取り払った時、何が一番好きか、と聞かれた。

私が一番好きなのは、やっぱり人だった。

この回答をしている時が一番楽しかったし、面接官3人の表情が柔らかくなったことが嬉しかった。この質問を投げかけるこの会社が、この面接官たちが好きだと思った。「うちの会社に合っている」という人事からのFBは、この質問の回答故だったのだと思う。


もう就活は二度としたくないけれど、でもこんなに多くの大人と話せたことは、かけがえのない経験だった。
就活を通して、想像以上に多くの方に、一緒に働きたいという言葉をかけていただいた。
中にはお世辞で言ってくれた人もいたけれど、多くの人の言葉は本物だった。

返報性の原理は本当にあって、私は本当に出会うすべての人を好きだと思ったから、返してくれた人がたくさんいるのだと思う。

はなさんは、相手のパーソナルな部分に触れることができる人。はなさんの距離感のおかげで、みんな本音で話せるんだと思う。底にある感情を引き出すことは、全員にできることではないよ。

一人の後輩にいつか言われたこの言葉が、今でも忘れられない。

私のできること、したいこと、すべきことの3つが重なる場所は、確かにここにある。

だからやっぱり私は、人に会うことを、人と話すことを、人の心の底に触れることを、諦めない人生を歩みたい。
会いたい人には軽やかに会いに行ける柔らかさが、誰かの声を、悩みを聴き、それを拾える強さが欲しい。



もう一つ、わたしにあると思えるもの。
それは書くことだった。


小学四年生の時。先生が私の詩を読んで、これはものすごくいいと、クラスのみんなの前で言ってくれたこと。

後輩の、はなさんの文章が、文体がすごく好きだという言葉。

顔も本名も知らない方が、私の書いた文章にわざわざお金を払ってくださったこと。

部活の先輩の、総合職には向いていないけどでも本に関わっていそう、おすすめの本をいつか教えて欲しいという言葉。

色紙にある、いつかはなさんの小説が読みたいという文字。

ゼミのみんなが、私の言葉に救われていると言ってくれた日々。

ブログ感動したと、何人の人に言ってもらったか分からない。

ある会社の多くのOBに、ESの表現が良いと褒められた。

もう会えなくなってしまった恩師が、あなたは小説家になりなさいと言ってくれた時の、あのまっすぐな目。


出版社はあえて受けなかった。傷つきたくなかったからだ。書くことだけは、私の自由の中にあって欲しかった。

でも同時に、人生は有限だった。

言葉は、余白の中にある感情の波によって生まれる。だから、忙しいと書けない。それは物理的なものだけではなく、精神的にもだ。
ただでさえ人よりも時間がかかる私は、両立が苦手な私は、書くことができない時間が続いた。もどかしかったけれど、それでも書くことの優先順位はいつも低い。書くことは、自分のためのことだから。

でも、だから、今でさえ書けなかったら、きっと私は一生、書かない人生を選ぶ言い訳をし続ける。


なぜ、旅をするか。
それは、人に出会うことと、書くことは、独りにならないとできないからだ。
だから、正直独りになれるならどこでも良かった。ただ、知らない土地に、知らない人に囲まれたかった。

東京は雑音が多い。頭の多くのメモリーが、その雑音たちで埋め尽くされているのに、もう疲れてしまった。
東京は人が多い。知り合いが近くにいることに、結局甘んじてしまうと思った。

留学に行くことは、3ヶ月でもおそらく何かしらの効果はあるのだと思う。でも、3ヶ月の留学経験者なんて死ぬほどいるだろうし、それを経て、わたしらしさが深まるとは思えない。だったら、もっと私だからできる選択がしたい。

どこに焦点を当てるか。
今、ひとつ想像しているものは、水辺だ。わたしが惹かれる人の多くが、水辺と接点を持っている。それは多分、水辺と孤独は親和性があるからなのだと思う。

水辺の近くにある宿泊地で、1、2ヶ月単位で働かせてもらう。あるいはもう少し期間を狭めて、海の街を転々と歩く。泊まりに来る人、海に惹かれている人の生活史を集める。

これに何の意味があるのかは、本当に分からない。メリットも、利益も、何もないかもしれない。それでも、人に出会うことだけで、私にとっては、それでしか得られない喜びがある。


星野道夫の言葉で、好きなものがある。

「大切なことは、出発することだった。」

出発した先にある景色が知りたい。
私の願いは、ただそれだけだ。


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