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「音楽が大好きでいることがどれほど正解か」Leonidenの新譜の感想(温)

もしまだこの曲↓を聴いていなくて、尚且つもしこれからこの曲を聴こうとする人がいるのだとしたら、私は絶対絶対歌詞も合わせて鑑賞してほしい。

"俺は100万曲の失恋ソングを書くよ。100万曲書き終わったら、また別のを書くんだ"

歌詞:https://genius.com/Leoniden-a-million-heartbreak-songs-lyrics

私は何かを分かったような口をきくことはできないけど、それでも人生というのは永遠に悲しいものだと思う。それは「私だから」とか、「あなただから」とかいう条件は関係なく、私達は誰しもが生きる上で、無条件に理不尽に大切なものを何かによって奪われて、理想を打ち砕かれて、何かの一生治らない傷を負うのだと思う。例えいくら頑張っても、望んでも、元に戻らないほど奪われたり傷ついたりするその虐待や暴力のせいで、決して拭えない絶望の苦痛と共にあり続けて、とてもやりきれない思いに常に苛まれて、幸福は手に入れる度に一生壊されるのだと思う。

LeonidenのこのA Million Heartbreak Songsにもそんな悲しみがある。Leonidenの場合それは失恋だけど、歌詞を通じて音楽を得る上では、リスナーにとってそれは一つの「どうしても治らない悲しみ」の普遍的な意味として共感できるはず。Leonidenの訴えるその失恋の中に、リスナーは自身の最大の痛みや傷を落とし込んだり見出したりすることができると思う。

この曲は、「俺は(俺らは)自身の悲しみと何度でも向き合って、何度でも形にするんだ」という、表現者、アーティスト、音楽家としての本質的な野望が宿っている感じがする。作風はPabstとかと同じドイツらしいコアなパンクシーンの一連に被るようなもの。LeonidenはそこにTwo Door Cinema Clubのようなポップ味のあるUKロック感とか、Passion PitやLos Campesinos!にも似た楽天的な明るさも持ってるイメージ。それでも他のパンク、パワーポップ、エモの類とは大きく異なり、ブラックミュージック系統のソウルフルなコーラスを大活用したり、熱量を何段階にも高めるようなシンガロングのパートを得意にしてたりする。メロディーもオーディエンスとの一体感を狙ったかなりのキャッチーさで、コーラスを起用する独創性と相まって、音楽のテンションやハピネスは相当にハイグレードになってる感じ。Leonidenは、その激情の反抗的なパンク感と楽しい気持ちを引き出すポップネスが共通の性質になった熱中感がとにかくユニークで好き。A Million Heartbreak Songsにも勿論そういう、苦痛から遥かに遠ざかる前向きな推進力の衝動と、悲しみを克服するために団結して立ち向かうような力強いライブパフォーマンスの風格がある。本曲の場合それが失恋の世界観の中で働いて、永遠にどうしても治らない悲しみに対し、それが治らないものと知っていても、少しの意味を持たなくても、「それでも少しでもよくなってほしい」と足掻いてもがく、僅かな抵抗や小さな願いの、絶対に手放したくないような大切な輝きを持つようだった。

何のために生きてるかは分からないし、そもそも「人生の意味」を議論しようなんて幼稚すぎるけど、それでも、「ツラいことは嫌だ」という道理が自分の中でハッキリ存在している気がする。恐怖でいるよりかは安心していたいし、自己が否定された感覚の孤独よりかは多くの人に認められている実感が欲しいし、楽しいか悲しいかの二択でどっちがいいか聞かれたら勿論楽しい方がいい。何のために生きるかは分からないけど、とにかくツラいことを少なくすることが私の中で答えになっていて、同時にそれが他にないベストな生き方でもあるような気がする。それが私が人生でずっと追い求めていたい目標である気がする。そしてLeonidenの「失恋ソングを100万曲書く」というアクションやそのテーマは、紛れもなく、あまりにも紛れもなく、全身全霊に究極的なまでに、私にとってその「悲しみを無くそうとする」という、その答えや生き方の核心的なそのものだった。

Leonidenは、音楽が大好きでいる私達の人生がどれほど正解であるかを思い知らせる。失恋ソングを100万曲書く、書いて書いて書きまくるというその意欲が、一生治らない悲しみも少しでもよくなってほしいと、生きるツラさを少しでも無くしたいと、それがいかに間違いない生き方であるかを心に直撃的に教えてくれる。思えばこれまで私が出会ったいくつものアーティストの、いくつもの作品がそうだった。アーティストの楽曲、誰かの何かの一生懸命になって伝えたいこととは、僅かながらの抵抗が、小さな願いが、手放したくない大切な輝きが、常にあった。初めて音楽を好きになったときから変わらない感情に直接的な純粋なるワクワクも、今を刻む唯一無二のキラキラした夢の悦びも、言語化不可能なときめきも、痛みや傷が永遠に癒えない人生の中で、これまで夢中になれたすべての音楽の瞬間が正解だった。Leonidenは失恋ソングを100万曲書く。書いた後も懲りずにまた書く。書いて書いて書いて、何度でも生み出し続ける。それが意味するのは、これまでも、これからも、小さな願いや大切な輝きの、夢中になれるその正解と、私達は音楽で共に在り続けることができるということ。こんなにもすべてを包含した嬉しさというのは本当に考えられるのだろうか。ガムシャラな推進力と団結的ライブ力の強さを誇るそのA Million Heartbreak Songsで、私はそういった特大のスケールの美しい情熱のインパクトに打ちのめされて、その事実を限界まで享受しようとした。もう耐えられないほど幸せだった。この曲は私にとって単に1曲なのではなく、これまでの人生の莫大な経験、音源の鑑賞やライブ、その他音楽に纏わる思い出の長い長い時間を内包したもの。同時に永遠に悲しい私達の人生とどう向き合うかの、誰に何を言われても揺るぎない死ぬほど無敵の信念を確立したもの。悲しみについて100万個の曲を書く。終わったらまた書く。その音楽の行為に夢中になることだけで、私の人生はそれだけでいいのだった。

上述したA Million Heartbreak Songsの感動は自分の拡大解釈が働いたものだけではないと胸を張って言いたい。Leonidenが本当に本当に凄まじいのは、歌詞や曲想以上に音楽的工夫の中身のよさが本気で尋常じゃないほど効いてるところ。本曲はメッセージ性(失恋ソングを書いて書いて書きまくる)の内容に掛かる形の構成や展開も偉大だし、適用するサウンドの新規性ももう狂ってるってくらいすごいと思う。2回目のリードフレーズのダイナミクスが1回目より弱くなるとかとても印象的だし、それが終盤のスパートを頭おかしいくらい高める前振りになってるのとか、一般的なポップチューンでは考えられないようなアイディアだと思う。そのリードフレーズが3回目を回ると今度はフィーリング(和音)が変色して別の心情の領域に移るところとかも豊かさと意外性のフックが別格。あとは最後直前の間奏的パートにおけるエモーショナルさのボルテージ。友達や家族の助言、時間による解決、至る様々なことに言及しても拭えないその悲しみを、ときには季節や陽の光、映画的感覚まで取り込んだその美しい悲しみを、それがどれほどの痛みであるかを訴える迫真の切実性。そしてその卓越した演出をもってしてクライマックスに達する感じ。それまでの過程と履歴の徹底的なまでに見事な貢献のブーストが乗っかる形のそこで、もう死ぬからやめてって思うほど感動がありえなさすぎるストリングスのトレモロが繰り出される。もうここのストリングスで殴るみたいなトレモロのサウンドの新規的な使い方は発想がほんとに狂ってると思う。音楽の全速のテンポ感を利用しながらビッカビカのピッカピカに無我夢中でとにかく光を放ちまくる感じ。A Million Heartbreak Songsの曲を書いて書いて書きまくるという理念の、私が思う「永遠に悲しい人生を生きる方法そのもの」の、私にとって答えになる瞬間を、これでもかというほど照らしまくる音楽。初めて聴いたとき、あまりに耐えきれない感動で洋服を破れそうなほどギューっと掴んでいた。聴き終わった後も死にたくなるほど恥ずかしくなるくらい声に出してワンワン泣いた。あまりに長いこと泣いてヘトヘトになって、体調も終わって、その日はもう何もできなくなった。「失恋ソングを書いて書きまくるんだ」っていう熱狂的な想いの表現が音楽的にとにかく忠実で、そこがクライマックスの威力と合致してるのがバカみたいに半端なさすぎるほど好き。何十年も音楽聴いてるけど、これほどまでの感動は生まれて初めてでしかなかった。

A Million Heartbreak Songsの感動は作品の10%しか占めていないのが本当に怖すぎる。A Million Heartbreak Songsは本アルバム『洗練された悲しみの曲(Sophisticated Sad Songs)』におけるごく一部であって、アルバム自体も案の定総合的に目覚ましいほど素晴らしい。ただでさえ2曲目だけでこの驚異的にヤバすぎるクオリティなのに、アルバムがしっかりそれ以上なの、もうどうかしすぎてて助けてほしい。聴いてから半ば失神してしまってアルバム全体はまだ十分に聴けていないのだけど、これ以上に感動してエネルギーを消耗するのが怖い。ジャケ見るだけで先日のその危機的な感覚が蘇る。





P.S. 曲の感動で正気を失いながら書いてたから、口調が気持ち悪いところが色々あったら申し訳ないです。。。(TT)笑

(ちなみにサムネについて補足すると、現在メンバーはベーシストがJP NeumannではなくMarike Winkelmannになってるらしい。)





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