銀表現の水脈
2022年より、作品に鏡を使っています。
理由がふたつあります。
ひとつは、水溜りに映る風景をモチーフにしていること、水溜りができて消えてゆくまでを人の時間に準えて作品制作をしていることから、作品に周囲の風景や見る人が映り込むおもしろさを考えたため。
もうひとつは、江戸琳派の銀屏風へのオマージュ。
屏風というと豪華絢爛な金屏風のイメージが強いかと思いますが、江戸後期になると銀屏風が制作され始めます。江戸琳派を代表する画家のひとり、酒井抱一作、夏秋草図屏風という作品があります。
尾形光琳が描いた風神雷神図屏風の裏面に描かれ、、、
向かって右、雷神の裏には雨に打たれる夏草が、
向かって左、風神の裏には風に吹かれる秋草が、
天界にいる神々と地上の風景が対となって表現されています。
洒落っ気がありますよね。
作品をみていると、しんみりひんやり、少しさみしげな情緒を感じます。
雨風といった人智及ばぬものを受けながらも、儚くも鮮やかに生きる夏草と秋草。生を祝福しながらも変わりゆくものの美しさが心に染み入るようです。
こう感じるのは、私だけではないはず。これは、風を受け雨を受ける繊細な草花の表現もさることながら、画面を支える銀色の大きな効果でもあります。
平安時代、10世紀から12世紀にかけて王朝文化では、銀は生と死という人間の人生の重要なシーンで使われてきました。
立后(天皇が結婚して皇后を正式に定めること)の際お手伝いをしてくれた乳母に銀製の調度品を贈ったり、出産の際に白に銀をあしらった装束を着けたり。
あるいは死後の安らかな成仏を願って、銀製の仏像や、銀を多用したお経が制作されたり。
この時代の文化から、銀=生死のイメージが培われ、煌びやかな宝物としての銀ではなく、情緒のある表現素材として銀が使われ始めます。
同時代の作品、源氏物語絵巻では、、、
色がだいぶ落ちちゃっててよくわからない感じになっていますが、左下に銀でススキが描かれています。徳川美術館の作品の場面解説によると、
と、あります。
当時、銀のススキが二人の思いを象徴して、見る人に伝えていたんだろうなあ、、。
源氏物語は幾度と挫折しているワタクシですが、絵から入ればいけるかも、と再再々チャレンジしたくなりました。
その後14世紀から16世紀にかけては、紙料下絵にて、白い花や、霞、雲、水流、雨、霧、雲といった気象現象を描くのに銀が使われました。
歴史を知らなくても、絵を見たことがなくても、共有するイメージがあるというのはその国で暮らす豊かさだよなあ、と思います。
銀にまつわる歴史、エピソードのほんの一部をご紹介しましたが、時間をかけて培われてきた銀へのイメージが、夏秋草図屏風へと流れ、現代まで続いているのですよね。
ずっと絶えず銀による表現がなされてきたかと言えばそうではなく、100年、200年といった大きなスパンで再表現されているのも面白いところです。
それにしても、海外の方が見たらどんな印象なんでしょうね。
いろんな国の人と一枚の絵を一緒に見てみたいなあ。
参考文献:
酒井抱一筆 夏秋草図屏風 追憶の銀色 玉蟲敏子著
徳川美術館 https://www.tokugawa-art-museum.jp
五島美術館に収蔵されている源氏物語絵巻が、2024年4月24日〜5月6日まで公開されます。銀表現の租。行かねば。
おまけ雑記
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