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【追憶の旅エッセイ #51】バンクーバー随一の展望台でマジカルビューに酔いしれる

数ヶ月滞在したバンクーバーでは、ほぼ観光らしい観光をしていない。

というのも実は、バンクーバーは以前に何度も来たことがあり、知人を訪ねて来たり、高校時代には夏季の語学研修で一ヶ月ほど滞在したこともある。その時に、ロッキー・マウンテンの壮大な景色が拝めるバンフ含め、界隈の見るべきところはしっかりと抑えていたのだ。

ただ今回初めて足を運んだ場所も数か所あって、その中でもグラウス・マウンテンの美しさは圧倒的であった。

ちなみに標高約1,250mのグラウス・マウンテン、冬はゲレンデとして知られていて、スノーボードやスキーの板を担いでウェアを着た若者たちが、街中から向かっているのを目にする。

そんな冬のグラウス・マウンテンに行ってきた。しかもちょっと薄いくらいの普段着と、山頂の気温を考慮することもない気軽さで。

さてバンクーバーから向かうとまず、シーバスというものに乗る。それはバンクーバー側とノースバンクーバーを結ぶ交通手段で、名前の通り水上バスです。大きい船体で揺れが少なく、12分ほどのクルーズ気分であっという間にノースバンクーバーへ。

そこから乗り継ぐように次は、スカイライド(ゴンドラ)で約8分。
バンクーバー随一とも称される展望スポット、グラウス・マウンテンへ到着する。

まるで映画のワンシーンのよう!

そのスカイライドから、もう気持ちは高まりはじめていた。
だってもうスカイライドを取り巻く空気が、さっきまでいたバンクーバー市内とまったく違う。凛とした静寂な空気が、ぴしっと張り詰めているのを感じる。

また眼下に広がるうっそうとした森の木々は例外なく雪化粧をし、ところどころを霧や雲が覆い、それが景色をなお一層神秘的に演出していた。

10分足らずの空の旅は、あっという間に私たちをグラウスマウンテンの展望台があるレベルまで連れてきてくれた。

スカイライドの中もそうだったけれど、外に出ると増々もうスキーヤーやスノーボーダーの姿しかない。普段着なのは私たちと、設置されたアイスリンクでスケートをするファミリーくらいだ。

私たちも最初はアイスリンクで遊ぼうかと思ったが、料金の高さにあっさりと諦めた。だってもうすでにスカイライドで高額を支払ったところだったから。

それに何より、寒過ぎた。

歯の根が合わないほど、笑っちゃうほど、寒い。

仕方がないので、私たちは展望台へ向かう。ここからは同行者が「絶対見た方がいい!」と強くすすめるバンクーバー市街が一望できる…、はずだった。

が、なんと、スカイライドに乗っている間、あれほど神秘的に見えた霧や雲のせいで、その絶景が見えない。

雲のあいまから見えるバンクーバーのシルエット。これはこれで神秘的

頂上まで来てスキーもスノボーもせず、アイススケートでも遊ばず、絶景も見えないとなったら私たちはいったい何をしに…と、

しばし落ち込んでいたところ、徐々に霧が晴れ雲が流れはじめたのだ…!

一度風で雲が流れ出すと、視界はあっという間にぱぁっと開けた。その絶景たるや!

スカイライドで昇ってきた山の深い森が漆黒の影を落とし、目の前には暗い闇が広がっている。その向こうに湾を挟んで、バンクーバー市内の夜景が眩く、神々しいほどに輝いていた。

これ、恋に落ちるやつ!

わぁ…。しばらく言葉を失い、寒さも忘れて立ち尽くしてしまう。

それがまた取り残された雲がぽつぽつと点在し、夜景をより神秘的なものに見せてくれている。

旅で出会った言葉を失うような絶景は、自然の造形美がほとんどだった中、このグラウス・マウンテンから眺めた夜景はそれらと同じくらいのインパクトを持って、私の記憶に仕舞われている。人工的な美しさにこれほど心動かされた、貴重な経験のひとつだ。

「これきっと、好きな人と見たら、一瞬で恋に落ちるね…」

「うん、だろうね」

そう一点だけ、私のこのときの同行者はエッセイにもたびたび登場する、ミチルさんとその友人。シングル女3人だったのだけれど。

でもこの後、景色が見えるカジュアルなカフェレストランで、ミートボールサブやスープ、サラダ、チップスなどで軽く食事をしたのもいい思い出だ。

ぐだぐだと他愛もない話と、世にも美しい夜景のコントラストはだって、今も深く記憶に刻まれているのだから。

◆旅帳より◆


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