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2022年に回顧する、楳図かずお「わたしは真悟」〜「楳図かずお大美術展」へ来場して

「楳図かずお」について。ある人は恐怖漫画の第一人者と言い、またある人はナンセンスギャグのカリスマと言い、そしてまたある人は、赤白ボーダーシャツの変なおじさんと言い…。まぁ、とにもかくにも「奇人・奇才」という言葉がこれほどまでに似合う人物が居ないくらい、不出生の漫画家であることは間違いない。

さて、彼の代表作に「わたしは真悟」という作品がある。

1982年、豊工業という都内の町工場でモンローという愛称の産業用ロボットが、自我に目覚める。モンローは結婚を誓った小学生2人の子どもだと思い込み、両親である近藤悟と山本真鈴の名前から1字ずつ取って、自ら真悟を名乗った。だが、2人は大人たちに引き裂かれ、まりんの家はイギリスへ行ってしまう。真悟はさとるが残した「マリン ボクハイマモ キミヲ アイシテイマス」というメッセージをまりんに伝えるために行動を始める。同時に、世界中のコンピューターと繋がることで知能と能力が増大し続けていく。(マンガペディア

 1980年代に描かれた作品ながら、プログラミングによる人工知能やインターネットで全世界が繋がった21世紀の現代社会を見事に予見しており、楳図かずおの先見にただただ驚かされる。ただ、筆者がとりわけ、この作品に感心を覚えるのは、人が作ったものが人知を超えた存在に変質していく、そのトリガーとして「子ども」という存在を据えている点にある。

 この物語は、真悟に対する「大人の視点」と「子どもの視点」、そして「真悟の視点」で3つで構成されている。大人達にとって「真悟」はあくまで産業用ロボットであり作業を遂行する機械である。しかし、「真悟」が自我に目覚め暴走し出すと、それは畏怖の存在となり、破壊の対象へと変化していく。一方、子どもにとっての「真悟」は、遊び相手であり、友人となる存在である。コンピュータを通じて語りかけ、多くの知識を与えていくことで、「真悟」は自我が芽生え、自由を手に入れ、それがきっかけで大人に追われることになるわけだが、子ども達は常に「真悟」の友人として協力をし続ける。さて、「真悟」にとって自身は、悟と真鈴の子どもとして2人を守り、そして「言葉」を届けるという使命を背負った存在として成長を続けていく。やがて、不治の病からの回復や、生物の復活など、神の業にも似た奇跡を起こしていくわけだが、その奇跡は「真悟」自身の子どもたる純粋意志が大きく影響する。

 このように、人知を超えた存在に対し畏怖する大人達と、存在を受け入れて友人であり続ける子ども達との対比、そして、子どものような純粋さにこそ奇跡が起こるという神秘性にこそ、本作の魅力が込められていると考える。

聖書には次のように書かれている。

「はっきり言っておく。心を入れ替えて子供のようにならなければ、決して天の国に入ることはできない。自分を低くして、この子供のようになる人が、天の国でいちばん偉いのだ。わたしの名のためにこのような一人の子供を受け入れる者は、わたしを受け入れるのである。(マタイによる福音書18章3-5節)

 この物語の印象的なシーンの1つに、子どもから大人に変わっていく事を恐れた主人公の「悟」と「真鈴」が、東京タワーのてっぺんから飛び降りるシーンがある。結局、救助ヘリコプターにより事なきを得るのだが、その飛び降りによって「子どもの終わり」を悟った2人と、その瞬間に「子どものはじまり」として自我に目覚める「真悟」のコントラストが本当に美しい。
 現在、電子書籍などでもすぐに手に入る本作。是非、一読してもらいたい。

 尚、現在、開催中の「楳図かずお大美術展」において「わたしは真悟」の続編となる、「ZOKU-SHINGO 小さなロボット シンゴ美術館」が公開されている。持病の腱鞘炎の悪化で1995年以降、執筆活動を休止している楳図かずおにとって27年ぶりとなる新作は101点のアクリル絵画による連作となっており、物語上の繋がりはないものの、所々に描かれる「わたしは真悟」を象徴するモチーフに色々な想像をかき立てられる。東京での開催は、今月3月25日までとなっているが、9月から大阪での開催も予定されている。80歳を超えて尚、衰えない楳図かずおの迫力を、是非目の当たりにして欲しい。

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「楳図かずお大美術展」https://umezz-art.jp/
東京開催:2022年1月28日(金)〜3月25日(金)@東京シティビュー
大阪開催:2022年9月17日(土)〜11月20日(日)@あべのハルカス美術館

(text しづかまさのり)

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