見出し画像

ドラマ「VIVANT」に見られるキリスト教的考察の楽しみ方

 話題のドラマ「VIVANT」が最終回を迎えた。
 中央アジアでの撮影に加え、主役級の俳優による共演ということで、映画並みの制作費と労力をかけた作品として話題となった本作。NetflixやAmazonPrimeなどのネット配信に多くの視聴者が奪われ、TVはオワコンなどと揶揄される昨今、まさにTVの威信を賭けたドラマといっても過言では無いだろう。
 筆者も、「半沢直樹」や「下町ロケット」などといった名作ドラマを手がけてきたヒットメーカー福澤克雄監督が、原作から演出まで全てを担当する完全なオリジナル作品ということもあり、ワクワクしながら毎週TVの前でかじりついて視聴してきた。

1話あたりの制作費は5千万円超? 「VIVANT」に豪華キャストが勢ぞろいした裏事情
TBSは日曜劇場「VIVANT(ヴィヴァン)」の制作にあたって巨額を投じ、長期海外ロケも敢行。主演・堺雅人(49)を支えるのも超豪華俳優陣と、尋常ならざる力の入れ様だ。(デイリー新潮/2023年8月6日)
https://www.dailyshincho.jp/article/2023/08061056/

 「VIVANT」の物語を一言で説明すると、日本の公安警察と海外テロ組織の戦いである。ただそこに「別班」なる自衛隊の秘密組織が介入することで、物語が大きな動きへと展開していくのだが・・・。
 ここで福澤監督が仕掛ける様々な伏線が物語をどんどん複雑化させる。先に挙げた豪華キャストや壮大な撮影ロケーションも魅力だと思うが、個人的には、この伏線こそがこの物語の醍醐味ではないかと考えている。登場人物のふとした行動や発言、場面に配置されたモノなどが、物語の流れを大きく左右する鍵となる。ドラマのそこら中に蒔かれた怪しげなモノやコトを巡って、視聴者は「あーでもない、こーでもない」と考察を始める。そして、視聴者が登場人物と一緒になって、問題解決に取り組む。この「物語の自分事化」にこそ、多くの支持を集めた核心にあると筆者は断言したい!
 ところで、こうした中には、キリスト教の宗教解釈を絡めて考察している視聴者も多く見られ、大変興味深かった。以下に一部を挙げる。

■黄色の衣装は裏切る!
「敵か味方か、味方か敵か-冒険が始まる。」というドラマキャッチコピーのとおり、味方だと思っていた人物が敵だったり、逆に敵だった人物が味方になったりと、関係性が目まぐるしく動く。特に、裏切りを行う人物の多くが「黄色」を身に着けていることから、キリスト教の伝承や美術においてよく言及される「黄色=裏切り」と考える視聴者が多かった。

しかし、もし彼が清い者とされた後に、そのかいせんが、皮に広くひろがるならば、 祭司はその人を見なければならない。もしそのかいせんが皮に広がっているならば、祭司は黄色の毛を捜すまでもなく、その人は汚れた者である。(レビ記13:35-36)

■「7」の数字が怪しい!
物語では、何故か「7」に関する数字が頻繁に登場する。旧約聖書には「7日間で神が天地を創造した」と記述されており、キリスト教文化において「7」という数字は、完全性や神聖性を象徴する数字とみなされていることから、「「7」の数字の意味」に関して、様々な議論が生まれていた。

神は第七日にその作業を終えられた。すなわち、そのすべての作業を終って第七日に休まれた。神はその第七日を祝福して、これを聖別された。神がこの日に、そのすべての創造のわざを終って休まれたからである。(創世記2:2−3)

■テロ組織の合言葉は、罪の赦し
テロ組織は、取引の際「山羊77頭」という合言葉を使う。山羊はいわゆるスケープゴートと呼ばれる旧約聖書における贖罪の儀式に使われた。そして77と言う数字は、新約聖書において、弟子ペテロとイエスキリストとのやり取りから絶え間ない寛容を表していると言われる。こうした背景から、この合言葉には、テロ組織が取引相手に対するメッセージが込められているのではないかと話題になった。

そのとき、ペテロがイエスのもとにきて言った、「主よ、兄弟がわたしに対して罪を犯した場合、幾たびゆるさねばなりませんか。七たびまでですか」。イエスは彼に言われた、「わたしは七たびまでとは言わない。七たびを七十倍するまでにしなさい。(マタイによる福音書18:21-22)

これらの考察は、残念ながら物語とは全く関係が無かったのだが、こうした視聴者同士の考察合戦を含めて、本当に楽しませてもらった。この人気から、まことしやかにVIVANTの第二弾が「考察」されているようだが、その真偽はさておき、気長にその日を楽しみにしたいと思う。

(text しづかまさのり)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?